ロードノイズが10dB減少、タイヤのホイールに樹脂部品を足すだけ:材料技術
ホンダが開発したホイールでロードノイズを低減する技術「タイヤ気柱共鳴音低減デバイス」が「第14回新機械振興賞」の「機械振興協会会長賞」を受賞した。高級車種から搭載がスタートした技術を、普及価格帯までコスト低減を図った点が評価された。
ホンダは2017年2月21日、ホイールでロードノイズを低減する技術「タイヤ気柱共鳴音低減デバイス」が「第14回新機械振興賞」の「機械振興協会会長賞」を受賞したと発表した。新機械振興賞は、機械振興協会によって機械工業の優秀な研究開発とその担当者に贈られる。
タイヤ気柱共鳴音低減デバイスは2010年に開発した樹脂部品で、共振を打ち消して消音する。2011年モデルの「レジェンド(米国名アキュラRL)」で初めて採用した。高級車種から搭載がスタートした技術を、普及価格帯までコスト低減を図った点が授賞の理由となった。採用車種はレジェンド、6人乗りワゴン車「ジェイド」、燃料電池車「クラリティ フューエルセル」がある。
受賞テーマは「タイヤ気柱共鳴音低減デバイスの技術進化」。受賞者は本田技術研究所 四輪R&Dセンターの神山洋一氏と、ホンダR&Dアメリカズの石井克史氏。
タイヤの空洞から発生する「タイヤ気柱共鳴音」をなくせるか
タイヤ気柱共鳴音は、路面の凹凸によってタイヤ内部の空洞が共鳴することで発生する車室内騒音で、ロードノイズが発生する原因の1つだ。他のロードノイズの要因と比較すると音圧が大きいだけでなく、純音に近い音色で残響感を伴うため耳障りな音として聞こえる。
プラグインハイブリッド車や電気自動車など電動車両では、エンジンに起因するノイズが低下して他のノイズがより目立つようになるため、タイヤ気柱共鳴音の低減は重要度が増す。
内部空洞の共鳴をタイヤ構造の工夫で止めるのは、タイヤの本来機能との両立が困難になる。一方、サスペンションなど足回りから伝達するのを防ぐ手法や、車体自体の防音対策を行うのは、対象の部品が増え、重量増にもつながる。環境規制への対応から車体軽量化が必須となっている中、重量が増加する防音対策の採用も難しい。
ホンダは、扁平な樹脂部品「ヘルムホルツ型レゾネーター」をタイヤのホイールにはめ付けて固定することで、タイヤ気柱共鳴音を従来より10dB低減した。聴感上は認知できないレベルだとしている。ホイールに装着するため、タイヤの種類を問わないこともメリットとなる。
ヘルムホルツ型レゾネーターとは何物か
ホンダがヘルムホルツ型レゾネーターの開発で重点を置いたのは以下の項目だ。
- 最高速で走行中の遠心力や、悪路や縁石乗り越えなどの大きな入力に対し、従来のホイールと同等の耐久性を持つこと
- 軽量でホイールバランスに影響を与えないこと
- タイヤ着脱などの整備性が従来のホイールと同等であること
- ホイールの製造工程に影響を与えず、量産性も考慮した低コストな構造であること
ヘルムホルツ型レゾネーターは薄肉の樹脂部品で、生産性の高いブロー成型で成型する。遠心力に対する強度が高く軽量な高剛性ポリプロピレンを使用した。ホイールにはめつけて固定することができ、タイヤが回転しても回らないよう止まる構造となっているが、組み付けやすさも両立した。最大1500Gの遠心力に耐える。
2010年に開発したヘルムホルツ型レゾネーターは、レジェンド以外にもジェイドに採用されている。
2015年には、単室式だったヘルムホルツ型レゾネーターを複室式にして量産した。複室式はコストと重量を単室式から50%以上削減する。従来は4室必要だったレゾネーターを2室とし、構造を工夫してコスト低減を図った。第2世代に進化したヘルムホルツ型レゾネーターはクラリティ フューエルセルに採用されている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「新しいホンダ」は2030年に自動車販売の7割を電動車両へ
ホンダは東京都内で会見を開き、同社社長の八郷隆弘氏が中長期的な四輪事業の方向性などについて説明した。世界戦略車を中心にホンダらしい製品を投入していくため、開発/生産体制を見直す。また2030年には、プラグインハイブリッド車やハイブリッド車、燃料電池車、電気自動車といった電動車両の販売比率を7割弱まで引き上げる方針だ。 - モーター自社開発のホンダが日立オートモティブと合弁、日米中で電動車向けに生産
ホンダと日立オートモティブシステムズは、電動車向けモーターを開発、生産、販売する合弁会社を設立する。生産開始時期など詳細は協議中だが、開発は日本で、生産と販売は日米中の3カ所で行う。ホンダは自社のモーター生産ラインは維持する。「ホンダ以外でも、関心のある納入先なら積極的に外販したい」(ホンダ)と述べた。 - ホンダとマツダが語った「“使えるクラウドCAE”実現に必要なこと」
日本自動車工業会のCAEクラウド調査タスクのチームは、MSCのユーザーイベントにおいて、クラウドCAEに関する調査の経過報告を行った。クラウドプロバイダーやソフトウェアベンダーとのディスカッションを重ねるとともに、セキュリティの調査やベンチマークなどを実施してきたという。 - 樹脂製品を量産するための5つのポイント
2代目社長と一緒に樹脂製品を作ろう。今回は樹脂製品を量産するために確認しておきたい5つのポイントについて解説する。 - 設計で使える! 甚さんの材料特性データ
材料選択でいつも頭を悩ましている方へ。甚さんが、設計で使える職人アイテム「材料特性データ」を公開!