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インドに残る混沌と、次第に浸透する欧米流ライフスタイル新興国自動車事情(5)(4/4 ページ)

インドの首都デリーは、大ざっぱに捉えると2つに分けることができます。昔からの市街地オールドデリー、そして行政機能を持ちビジネス街としても整備されたニューデリーです。その境界近くは、昔ながらの雰囲気と近代的なモータリゼーションが混在する、不思議な感覚に満ちていました。

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開発が進みつつある郊外

 デリー市内からモーターショー会場へ向かうには、メトロと臨時シャトルバスを乗り継ぐ必要がありました。乗り換え駅はデリー中心部から南東へ10kmぐらいの位置にあったのですが、ここはベッドタウンとして開発が進んでいる様子が見られました。

 デリーメトロは、2002年に最初の路線が開業しました。今回使ったメトロ3号線は2006年の開業ですが、駅前の広大な駐車場には二輪車と四輪車がぎっしりと駐車されていました。パーソナルモビリティで駅まで来て、ここでメトロに乗り換えてデリー市内へ通勤するという「パーク&ライド」のライフスタイルが浸透してきていることがうがかえます。

メトロ3号線。車両はボンバルディア製で、車内も清潔な印象(左)。メトロ駅に到着した、モーターショーのシャトルバス。車両はデリー市内を走る低床路線バスで、大気汚染防止のために燃料はCNGを採用。背景には真新しい高層アパートがそびえている(右)(クリックして拡大)
駅前の駐車スペースを埋め尽くす大量の二輪車と四輪車。昼間に車両の出入りはほとんどなく、市内へ通勤する人のものだと理解できる(クリックして拡大)

 乗り換え駅からさらに郊外へと走るバス路線も充実しているようで、駅前では中・大型のバスがひっきりなしに発着。順番待ちの車両が鈴なりでした。ただし、昼の時間帯では乗降客がさほど多くなく、バスも朝夕の通勤需要が多いのではないかと推測されます。

駅前に列をなす、さらに郊外へと向かう路線バス。低床化の進んだ市内とは異なり、旧式のフロントエンジン車が主力(クリックして拡大)

 ところで、インドの道路事情といえば「路上に牛が寝ている」ということを耳にした人も多いと思います。これはある程度事実ですが、以前よりは見かけることが少なくなってきたように感じます。デリー市内では路地裏を別として、大通りで牛車以外に見かけることはありませんでした。ただ郊外では、路肩に悠然と構えている姿を見ることができました。

駅から離れると、ある意味で非常にインドらしい風景が広がる。大きな交差点には信号こそあるが、横断歩道はない。歩行者にとって使いやすいとは言いづらい(クリックして拡大)

 郊外のベッドタウンあるいはその予定地では、マイカー所有を前提とした街作りを進めているところも多いようです。デリー市街と首都空港、インディラ・ガンジー国際空港の間にあるニュータウンでは、高架道路を新設して交通を円滑化しようとしていました。

空港と市街の間では都市開発が急ピッチで進められ、長距離にわたって交差点のない高架道路や、高層アパートが集まった街区などが出現している(クリックして拡大)

 またこうした街区には、欧米流のショッピングモールも建設されています。主な来店者はマイカーを所有できる裕福な家庭ですから、テナントも中流以上を対象顧客としているようでモール内部は落ち着いた雰囲気となっています。

郊外型のライフスタイルに対応して、ショッピングモールも続々と建設されている。外観からは倉庫のような印象を受けるものの、内部では世界各国でおなじみの風景が広がる(クリックして拡大)

 興味深いのはファッションフロアです。女性向けアパレルでは、ハイセンスでスタイリッシュな最新モードのサリーを並べたサリー専門店と、欧米流のカジュアルなファッションを売る店舗が並びます。その様子からは、人々の価値観やライフスタイルの変化、多様化も進んでいることを実感します。

 次回の訪問時には、さらに欧米の感覚やトレンドが浸透していることになるのでしょう。しかし外野の身勝手な願いとしては、サリーに親しむようなインド特有の価値観も残っていてほしい。そんなふうに思いました。

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筆者プロフィール

古庄速人(ふるしょうはやと)

工業デザイナーを目指し、専門学校の自動車デザイン学科に入学。修了後はカーデザイン専門誌の編集に携わりながら、フリーランスのライターとしても活動を開始。現在は自動車関連誌や二輪誌、Webメディアなどで記事やコラムを執筆中。技術と感性の双方の視点から、さまざまなトランスポーテーションのデザインをチェックしている。また新しい「乗り物」や新興国のモータリゼーションに強い興味を持ち、世界各国のモーターショーやモーターサイクルショーの視察を続けている。日本カーデザイン大賞の選考委員も務める。



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