第4次産業革命の真の幕開けとなる2017年、カギを握るIoTプラットフォーム:MONOist 2017年展望(3/3 ページ)
2016年は製造業におけるIoT活用が具体的なものとして進展した1年となったが、2017年もその流れはとどまることはない。実導入や実活用に向けた本格的な動きが広がる中で2016年に注目を集めたのが、IoTを活用する基盤「IoTプラットフォーム」である。さまざまな解釈、さまざまなレイヤーのIoTプラットフォームが乱立する中、2017年はIoT基盤の整理が進む1年となる。
データの置き所から見るIoTプラットフォーム
垂直方向の連携で考える際に重要になるのがデータの置き所と、それを中心としたIoTプラットフォームの展開である。IoTの生み出す究極的な価値は「全ての企業活動をデータ化しそれを活用すること」だが、その意味で価値の源泉となる「データ」をどこに置くのかという点が、論点となる。
IoTが話題になり始めた数年前は、集めたデータを全てクラウドに集めるという考え方が支配的だった。IoTであらゆる機器から情報を集めることを考えればスケーラビリティ(拡張性)のあるクラウドの利点が発揮できるためである。さらにデータをクラウドで一元的に保有できれば、クラウド上で分析なども行うことができ、ユーザー側の負荷を低減できる。ただ、CPS(サイバーフィジカルシステム)を想定した場合、クラウド上で分析した結果を現実世界にフィードバックすることを考えると、通信状況による遅延が生まれるクラウドでの処理は、リアルタイム性が要求される環境では使用できない。
そこで重要になってくるのが、現場(エッジ)に近い領域でデータの一次処理を行うエッジコンピューティング、もしくはフォグコンピューティングなどの考え方である。エッジ領域でリアルタイム性が要求される事象についてはその場で処理して現実世界にフィードバックし、リアルタイム性が必要なく大規模な演算力によるデータ分析が必要なものについてはクラウドに上げるというような仕組みである。
NECが提唱する「IoTアーキテクチャ5層モデル」。データの保持層はセンサーデバイスレベル、エッジコンピューティングレベル、クラウドコンピューティングの3層に分け、間を近距離ネットワークと広域ネットワークで結ぶという考え方である 出典:NEC
クラウド軸かエッジ軸か
こうしたデータの置き所を基盤としたIoTプラットフォームなどの展開も広がりを見せている。代表的な取り組みが、米国マイクロソフト(Microsoft)の「Azure IoT」やアマゾン(Amazon.com)の「AWS IoT」など、大手ITベンダーが力を入れる「クラウド層を軸としたIoTプラットフォーム」である※)。
※)関連記事:アマゾン「AWS IoT」は何が衝撃的なのか
最終的なデータの収納先であるクラウド側に収納しやすい形でデータを取得できるようにする仕組みである。NECが提唱する「IoTアーキテクチャ5層モデル」でいえばL5からL4を中心にカバーするIoTプラットフォームである。
一方で、エッジコンピューティングを中心とし上位と下位の接続を確保しようというIoTプラットフォームの提案も増えてきている。製造業でいえば最も大きな動きとしてはファナックが推進する「FIELD system」がある※)。
※)関連記事:ファナックのスマート工場パートナーに200社以上が参加、デファクト形成へ加速
ファナックは、米国のネットワークベンダーであるシスコシステムズ(Cisco Systems)、産業用オートメーション関連のロックウェルオートメーション(Rockwell Automation)、日本の深層学習技術のベンチャーであるPreferred Networks(以下、PFN)、NTTグループなどと提携し、製造現場を軸としたエッジコンピューティング層での処理に重点を置いたIoTプラットフォームを提唱。APIを公開し既に200社以上のパートナーを集めている。これは、IoTアーキテクチャ5層モデルでいえば、L3を軸にL4やL2をカバーする仕組みである。ファナックではL1のデバイスコンピューティングレベルではCNC(コンピュータ数値制御)で高いシェアを持っているため、現場レベルから上位を結ぶという仕組みを構築している。
これらのように、IoTプラットフォームとして既に展開されている枠組みもカバー範囲が大きく異なっている。この他に、製造業でもあるITベンダーであるNECや富士通、日立製作所などの国産ベンダーはこれらの中間的な立ち位置を取っていたり、ネットワークベンダーがIoT向けでL4やL5の一部をカバーするような枠組みを提供したりするなど、IoTプラットフォームの在り方は2017年はさらに大きな変化が進む。トータルサービスとしてIoTプラットフォーム同士のアライアンスなども加速する見込みだ。
製造業のユーザー企業にとっては、最終的にはこれらを全てカバーする形が理想像だが、そこまでにはまだまだ道のりが長いと見られており、どの領域が必要なのかを見極めながら活用していく必要がある。
関連キーワード
IoT | 製造業 | ファナック | エッジコンピューティング | PLM | インダストリー4.0 | 第4次産業革命 | ビッグデータ | サイバーフィジカルシステム | フォグコンピューティング | スマートファクトリー
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- GEとNECが産業用IoTで提携、「Predix」を共同展開へ
GEとNECは産業用IoTにおいて包括的な提携を結ぶことを発表した。GEが推進する産業用IoTプラットフォーム「Predix」を共同で展開し、産業用IoTの活用を広げていく。 - IoTプラットフォームサービスに新たなデータ収集/分析ソフトウェアを追加
NTTコミュニケーションズは、IoT導入に必要となる機能を一括で提供する「IoT Platform Factoryパッケージ」に、ゼネラル・エレクトリックのIoTデータ収集/分析アプリケーションに対応したプランを追加した。 - NECのIoTプラットフォーム、本質的な価値は“スピードアップ”
NECは、製造業をはじめさまざま業界向けに展開可能なIoT(Internet of Things、モノのインターネット)プラットフォーム「NEC the WISE IoT Platform」を発表した。現在、同社のIoT関連の売上高規模は600億円程度だが、同プラットフォームによって事業展開を強化し、2020年度には売上高3000億円を目指す。 - 半導体メーカー7社、IoT向け組み込みモジュール「IoT-Engine」で協業
トロンフォーラムの提唱するIoTエンドデバイス向けの組み込みプラットフォーム「IoT-Engine」に、東芝やルネサスなど半導体メーカー7社が協力する。各社が自社の強みを打ち出しつつ、デバイスがクラウド間の連携機能により“総体的”に働くIoTの実現を目指す。 - IoTによる「自律工場」へ加速するファナック、NTTグループとも提携へ
産業用ロボットやFA機器などを展開するファナックは、NTTグループ3社と提携し、IoTによる自律した工場を実現するためのプラットフォーム「FIELD system」の早期実現に向け、協業を行う。 - 製造業に押し寄せるIoT活用の波、日立が第4次産業革命で抱える強みとは
IoTの活用などを含む第4次産業革命が大きな製造業にも大きな変化の波が訪れている。その中で日立製作所は新たなIoT基盤「Lumada」をリリース。大手企業の中では後発ともいえるが、同社は勝負のカギとして「OT」を挙げる。OTを担当する制御プラットフォーム統括本部にその強さを聞いた。