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中小企業のメカ設計現場にとって「イノベーション」とは、「IoT」とは3D設計推進者の眼(16)(3/3 ページ)

機械メーカーで3D CAD運用や公差設計/解析を推進する筆者から見た製造業やメカ設計の現場とは。今回は「SOLIDWORKS WORLD JAPAN 2016」から聞こえてきた「イノベーション」と「IoT」という2つのキーワードについて考えた。

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「3D CADとIoT」とは何ぞや

 MONOistの記事にもありますが、今回のイベントでダッソー・システムズ ソリッドワークスのキショア・ボヤラクントラ(Kishore Boyalakuntla)氏が、今後の展望の1つとしてIoTの話をしていました。

 IoTとは、「Internet of Things」の略です。私の理解では、それは「モノがインターネットとつながって便利になること」。「センサーがさまざまなデバイスに取り付けられ、情報がクラウドに集められる」「集められた情報は何かしらの学習機能によって判断され、クラウドからさまざまなデバイスに対して情報が発信される」「その情報を受け取った人やモノは便利になる」といった感じでしょう。人工知能(AI)に折り畳み方法を学習させているというランドロイドも、まさにその技術を駆使しています。

 しかし私自身、「3D CADとIoT」といわれても、正直、あまりピンときていません。

 それはおおよそ「3D CADがインターネットとつながること」だとは思いますが、既にPCはインターネットとつながり、詳細設計を行う上で、設計に使用される機器の製品情報……、例えば3D CADの形状データや、CAEを行う上での機械特性などのデータを入手することは容易になっています。

 大企業の場合、設計拠点間のPDMデータの共有も行われるようになり、国内外を問わず、拠点間での協調設計、多拠点での同時設計も可能となりました。このように、3D CADデータが共有できるようになったことで、これもまた大企業の場合、CAEの現場では、日本で設計したものを、時差を利用して日本がクローズしている日本時間の夜に他国で解析を行い、翌日の朝、すなわち日本がオープンする朝には解析結果を渡すといったことも可能となりました。

 同じ時間帯での詳細設計と解析作業の場合では、詳細設計を行った後、続いて解析を行うことが多く、その解析作業の間は解析対象になっている部分の詳細設計を止めなければならなかったり、また詳細設計中で設計が進んでいない内容については、その詳細設計の成果物としての解析作業が出来ませんでした。「時間的節約」という合理化も可能となったわけです。

 しかしIoTは、そういうこととは少し違うのですよね? それ以上に革新的なことが起こるのでしょうか?

 3D CADとIoTによって設計開発現場にどのような変化が起こるのかといえば、そこは3D CADという概念にとどまらず、PLM(product lifecycle management)といわれる製品開発の企画段階から設計、調達、生産、販売、顧客サービス、廃棄に至るまでの「製品ライフサイクルに渡る全ての過程」を管理するための手法に結び付く大きな話のように私は考えています。

 3D CADで設計された製品実物にセンサーを取り付けたとします。ここでいう「センサー」とは、「情報を集めるモノ」と解釈します。ともかく、そのセンサーからは、その製品に関わるあらゆる情報が集められるようになるでしょう。

 例えば、温度調節器。温度センサーによって、その測定データがクラウド上に集められ、AIによって集計と処理が行われ、その内容が各家庭の温度コントロールシステムにフィードバックされたり、車に取り付けられた温度調節器にフィードされたりして、その地点での快適な温度設定を行うというような製品利用者への直接的な効果があるかもしれません。さらに、機器のメンテナンス情報や、設計上必要とするようなパラメータも集められて、開発設計側に開発設計を補助するようなデータを集めたりするようなこともできるようになるのでしょう。

 しかしながら、設計開発現場におけるITについて、中小企業と大企業との乖離がますます大きくなってきているように思えてなりません。皆さんはいかにお考えでしょうか?

 3D CAD運用の現場からは、「3D CADを2D設計時代の方式と変わりなく使おうとしている結果、効果的な3D CAD運用ができていない」「結果的に3D CAD化の工数だけが増えてしまって、設計品質の向上や、コストダウン、納期短縮もできず」「導入したのに現状維持で精いっぱい」といった話が聞こえてくることがあります。

 さらに「ビッグデータ」という言葉ですが、私の周囲では以前より聞こえてくる頻度が減ってきたように思います。一方、大企業ではこのデータを有効活用しているという話もよく聞きます。

 「インダストリー4.0」もそれと同様です。装置メーカーに身を置く私にとって、このインダストリー4.0という語句は、重要なキーワードだとは思うものの、「それは何ぞや」と聞かれても、装置開発に展開する上で、明確な回答はできません。しかし、大企業でのこの取り組みは着実にされているようです。

 加えて、IoT……。

 そうはいっても、悲観的に捉えるばかりではなりませんね。


 今回のイベントでは、SOLIDWORKSと連携可能なIoTプラットフォームとして「xively(ザイブリー)」とダッソー・システムズの「Netvibes」の紹介もありましたが、このあたりは次回以降にお話ししましょう。

Profile

土橋美博(どばし・よしひろ)

1964年生まれ。25年間、半導体組み立て関連装置メーカーで設計・営業・3次元CAD推進を行う。現在、液晶パネル製造装置を主体に手掛ける株式会社飯沼ゲージ製作所で3次元CADを中心としたデジタルプロセスエンジニアリングの構築を推進する。ソリッドワークス・ジャパンユーザーグループ(SWJUG)の副代表リーダー・事務局も務める。



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