微弱なノイズ電流で高齢者の身体バランスが改善:医療技術ニュース
東京大学は、微弱なノイズ電流によって、高齢者の身体バランスが持続的に改善することが分かったと発表した。寝たきりや認知症の原因となる身体のバランス障害を改善する、新しい治療法開発につながる研究成果だ。
東京大学は2016年11月22日、微弱なノイズ電流によって、高齢者の身体のバランスが持続的に改善することが分かったと発表した。同大学医学部附属病院の藤本千里助教、同大学大学院医学系研究科の岩崎(「崎」は旧字)真一准教授、山岨達也教授らの研究グループによるもので、成果は同月21日に、英科学誌「Scientific Reports」で発表された。
内耳にある前庭器官は、頭部の動きを検知し、身体のバランスを保つのに重要な役割を果たしている。この前庭の障害を主な原因とする身体のバランス障害は、高齢者の20〜50%に発症し、転倒リスクを上昇させ、寝たきりや認知症につながる。しかし、高齢者や障害が両側の場合、従来の治療では改善しないことが多く、有効で信頼性の高い治療法が求められている。
同研究グループは、耳の後ろに装着した電極から微弱なノイズ電流を加えるという、経皮的ノイズ前庭電気刺激(nGVS)によって、身体のバランス機能の改善を目指す研究に取り組んできた。これまでに、30秒間という短い時間のnGVS刺激中に、健常者と両側前庭障害の患者で身体のバランスが改善することを明らかにした。
今回の研究では、64〜70歳の比較的高齢な健常者30人を対象として、長期的な改善の有無について調べた。痛みや不快感が生じない程度の微弱なnGVSの長期刺激(30分間と3時間)を与えて、前向き自主臨床試験による検討をした。身体のバランス機能については、重心動揺検査を用い、目を閉じた状態で評価した。重心動揺検査は、直立姿勢における身体の動揺を足圧中心の動揺として捉え、評価するものだ。
複数のパラメータを用いて評価した結果、30分刺激でも3時間刺激でも、刺激停止後、数時間にわたってバランスの改善効果が持続することが明らかになった。さらに、30分刺激を4時間の間隔を空けて反復することで、刺激を停止した後の改善効果が強まる傾向にあり、改善効果の持続時間も長くなることが分かった。
常に電流の刺激をしなくても身体のバランスが持続的に改善するという、今回の成果は、新しい治療法開発の礎となり得る。また、nGVSが高齢者のバランスを改善し、転倒・骨折の減少に役立つ可能性も示す。同研究グループは、今後、両側の前庭障害を有する患者に対し、nGVSが長期的なバランス改善効果を示すことを証明する試験をする予定だ。
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