暗闇や豪雨を室内に再現してセンサーを評価、デンソーの額田テストセンター:安全システム
デンソーが報道陣向けに額田テストセンターを公開した。同センターでは、カメラやミリ波レーダーなどADAS向けセンサーの性能評価を行える設備を3年前から整えた。夜間や雨天など特に事故が多い環境下を再現して行う性能評価に力を入れている。
デンソーは2016年12月8日、報道陣向けに額田テストセンター(愛知県岡崎市)を公開した。同センターでは、先進運転支援システム(ADAS)が新型車の商品力に大きく影響することに対応して、カメラやミリ波レーダーなどADAS向けセンサーの性能評価を行える設備を3年前から整えた。夜間や雨天など特に事故が多い環境下を再現して行う性能評価に力を入れている。
額田テストセンターとは?
額田テストセンターは1984年に設立された。名古屋駅からはクルマで1時間半ほどの距離。山中の曲がりくねった県道を行くと、新城市や豊田市との市境近くに立地している。敷地面積は100ヘクタール(1km2)で、全長2.6kmの周回路を持つ。周回路には、旋回路や低ミュー路、バンクや登坂路、浸水路などが設定されている。
2010年以降、自動ブレーキなどADASの認知度が上がり、予防安全に対するニーズが高まってきた。システムの安全性をさらに向上するため、公道での走行、シミュレーションでの評価、テストコースでの評価をそれぞれ行うことで、高い品質を確保しようとしている。
テストコースでは、交通事故の統計に基づいてさまざまな環境を再現、センサーを評価する施設を充実させている。今回公開した額田テストセンターだけでなく、網走テストセンター(北海道網走市)や本社の実験室でも性能評価を行っている。2002年に開設した網走テストセンターは額田テストセンターよりも広く、敷地面積は550ヘクタール(5.5km2)。周回路は5.5kmだ。雪上試験も行う。
性能評価は夜間、雨天、市街地を重視
額田テストセンターには、夜間と雨天を再現して車両に搭載したセンサーの定量的な評価を行えるようにした施設がある。この施設は、試作段階から量産間近まで、さまざまな段階で評価を行っている。
交通事故総合分析センターがまとめた調査によれば、人対車両の死亡事故のうち7割が夜間に起きている。日本や欧州の自動車アセスメント「NCAP(New Car Assessment Program)」の安全性能評価基準でも、自動ブレーキによる衝突回避の対象に夜間の歩行者を加えることが検討されており、夜間の歩行者検知が課題となっている。
天候別にみると、死亡事故は雨/霧/雪の日が14%を占める。比率としては低いが、カメラやライダー(LiDAR:Light Detection and Ranging)が周辺を検知する際の外乱になる。これらの天候下でも高い検知性能が求められる以上、さまざまな条件下でのテストを行わなければならない。
また、場所別の死亡事故では、市街地や交差点が圧倒的に多い。そのため、網走テストセンターには市街地と交差点を模したコースを備えている。遮蔽物なども自由に設置でき、見通しの悪い条件も再現している。
事故が起きやすい環境や、センサーが苦手とする条件での性能評価に重点を置くことで品質向上を図り、競合他社との差別化を図ろうとしている。
月明かりも非常に激しい雨も、いつでも再現する施設
降雨や夜になるのを待って作業するのは効率が悪い。そのため、自然雨に近い降雨やさまざまな照度を再現し、安定して性能評価を行える建屋を整備した。建屋内には全長200m、幅10mのコースがあり、時速60kmでの走行まで対応している。
屋根と壁は直射日光を遮る。照明は150個を配置し、市街地の明るさから月明かりまで幅広い照度を再現できる。また、人工雨の粒径や降雨の分布を自然雨に近づけるため、500本の散水ノズルを天井に備えている。時間降雨量は4〜50mmまで調整でき、気象庁の指標である「非常に激しい雨」まで降らせることが可能だ。時間雨量は20mmを超えるとワイパーを高速で動作させても車両前方が見にくくなる。
この施設では、デンソーが採用を発表したソニーセミコンダクターソリューションズ製イメージセンサーの性能評価も行っている。
夜間や降雨の他にも、額田テストセンターや網走テストセンターでは、北米向けの車線逸脱防止機能のためのポッツドッツ(北米に多い車線の表示)や、歩行者の飛び出しに対応した設備も設けるなど、実世界の交通環境ありきの性能評価に力を入れている。
今後のテストコースへの投資について、デンソー 常務役員の加藤良文氏は「現場での評価は重要だ。実際の事故など検証すべきデータが増えてくれば、それをテストコースに反映させていく。今後もADASへのニーズは高まっていくし、『何もこんなことまでしなくていいだろう』というところまで評価できることは強みになるので、投資に見合うと考えている」と説明した。通信技術の性能評価も必要に応じて行う考えを示した。
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