紫外線LEDが水銀なき世界を灯す――ナイトライド・セミコンダクター:オンリーワン技術×MONOist転職(6)(3/3 ページ)
日本の“オンリーワンなモノづくり技術”にフォーカスしていく連載の第6回。今回は、世界で初めて紫外線LED量産化に成功、高効率化と低コスト化で水銀ランプを置き換えるまで紫外線LEDを“磨き上げた”ナイトライド・セミコンダクターを紹介する。
普及を阻む“猛獣使い”ビジネス
2008年には波長375nmの紫外線LEDで量産レベルでは世界最高水準となる発光効率36%の「NS375L-ERLM」をサンプル出荷し、2012年には単位面積当たりの出力が従来品の2倍という高出力タイプをリリース。2015年には従来コスト増の要因になっていた短波長化での効率ダウンを補う工程を簡素化して低コストで安定生産できる技術を開発した。
「波長にもよるが発光効率は既に50〜60%まできており、コストを下げる技術、安定的に生産する技術も着々と開発している。性能面はもちろん、コスト面でも既に水銀ランプを置き換えるところまできている」(村本社長)。
高出力化で水銀ランプの置き換えに十分対応できる性能になった紫外線LEDの認知を高めるため、自社でさまざまなアプリケーション製品も開発。蚊を誘引する紫外線の特性を生かした「光方式蚊取り器 MOSCLEAN」や、ソーラーパネルを搭載して屋外での設置を簡易にした「ソーラーUV-LEDガーデンスポットライト」などの他、高出力の紫外線LEDを採用した野外用投光器を2016年9月に発売している。それ以外にも、今まで水銀ランプを多数使っていたガラス樹脂を貼り合わせる工程で、水銀ランプの替わりに紫外線LEDを組み込んだ試作機を製造ラインで実際に使ってもらい、十分固められて問題ないという評価も得ているという。
2013年に採択された「水銀に関する水俣条約」(通称:水銀条約)では、水銀を含む製品の製造や輸出入を2020年までに原則禁止するとされている。それを受け、日本政府も水銀による環境の汚染の防止に関する法案を2015年3月10日に閣議決定した。同社にとって追い風となるはずだったが、一般的な照明用途以外の特殊用途の水銀ランプに関しては条約の適用除外となってしまった。これは「実現可能な代替製品がないものは適用対象外とする」という考え方に基づいている。
「水銀ランプのビジネスは、水銀という危険な猛獣を手なずけることによって、猛獣使いとして自分たちの価値をアピールしてきた。寿命が1000時間程度の水銀ランプだからこそ成り立っていた消耗品ビジネスは紫外線LEDによって崩壊するだろう。この既得権益を守りたい業界団体が、既に代替品としての条件をクリアしている紫外線LEDに目を向けないことが問題だ」(村本社長)。
環境面だけでなく、省電力性や長寿命性、小型化や高い安全性、高エネルギーを生かした殺菌用途、瞬時に発光しオンオフや出力可変の制御も自在など、数多くのメリットを持つ紫外線LEDはこれまでにない製品や市場を創出する可能性を秘めている。
「紫外線LEDが普及すれば、製造工程でのハードルが大幅に下がる。例えば、細かな制御が可能な紫外線LEDを敷き詰めてパターンを形成すれば、マスクレス露光も可能になる。安価で小型の卓上露光装置や、超小型の樹脂硬化装置なども登場するだろう。製造装置のダウンサイジングと大幅な簡素化が図れる他、水銀ランプのノウハウを持たない企業がそれらを開発できるようになる。このような新市場に期待したい」(村本社長)。
UVランプを使った市販の光造形3Dプリンタの従来のUV露光部(右)を改造して紫外線LEDモジュール(左)に換装する実験も社内で行っている。「従来の水銀ランプはウォームアップが必要なため電源入れてから5分間は3Dプリンタが使えない。LEDならスイッチ入れた途端に造形が開始できる」(村本社長)。
紫外線LEDを“愚直”に開発
同社の社是は「愚直」。これは、本来この言葉が意味する「賢く実直に振舞うこと」からきている。「分かりきったことでも手を抜かず一生懸命やることで道は拓け、革新的技術は天才がひらめくものではなく凡人が小さな成功を積み重ねることで成し遂げられる」と説く社是は、困難の末に紫外線LEDを開発した同社そのものだ。
「他社ができないものをやりたかったというのが半導体ベンチャーを選んだ理由。ITベンチャーはパソコン1台あれば起業できる分、すぐに追従する競合が出現して競争に巻き込まれる。しかし半導体の世界は難易度が高い分、なかなか簡単には追従できない。水銀の全廃に腰が重い産業界とは対照的に、いま最終ユーザーが『水銀のランプなんてまだ使っていいの?」という声を上げてきている。水銀というものはすごく恐ろしいもの。紫外線LEDを普及させることは、人類のためになる。社会的使命を担うベンチャーとして愚直に事業を進めていきたい」(村本社長)。
(取材協力:マイナビ)
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