ロボット開発に学ぶ、モノづくりへのOSS活用ポイント(2/5 ページ)
モノづくりにおけるOSS(オープンソースソフトウェア)への関心は高まる一方ながら、上手に活用されている例は少ない。OSSによるロボティクス領域の形成と発展をサポートする東京 オープンソースロボティクス協会の取り組みを通じ、「モノづくりへのOSS活用ポイント」を探る。
OSSを活用する意義とは
TORKが企業と話をするなかで、伝えることが難しいと感じているのがOSSコミュニティーとのつきあい方だ。
OSSコミュニティーとは、OSSの開発や改善、情報交換を目的とした有志・同好の集まりだ。海外の企業と比べると、日本の企業がうまくコミュニティーを活用している事例は少ない。一度体験してみればそのメリットは腑に落ちるため、TORKでは案件の成果物をオープンソースとして公開・運用することを企業に推奨している。
OSSを使う意義を一言で言えば、長い目で見たときに、ソフトウェアを育てていくための最良の方法だからだ。モノづくりの企業であればどうしても、作って終わりと考えてしまいがちであるが、恐ろしく長い時間をかけてテストしたものでない限り、ソフトウェアのエラーは取り切れない。また、作ったソフトウェアが依存する別のソフトウェアの更新などにより、整合性が無くなって動作しなくなることもあるため、結局は使いながら直していくほかない。
そして、OSSは「使いながら直していく」という方針に適していることがGoogleやFacebookといったIT企業の活動を通じて証明されつつある。彼らはコミュニティーの開発者に製品を使ってもらうことで、フィードバックを迅速に得て改良するというループを構築しているからだ。
例えばGoogleが公開運用中のディープラーニング用フレームワーク“TensorFlow”では、2016年8月の1カ月間にGoogle内外の105人が879の変更を加え、287件もの問題が解決されている。同数の問題発見と解決を自社内だけで行うとするとどれほどのテスターと開発者が必要だろうか。彼らほどうまくいかなくとも、テスターが付いてくれればソフトウェアのバグ発見は早くなる。
OSSの効果を実感するには時間がかかるため、短期でROI(投資対効果)を考えなければならない企業担当者の状況とは合わず、なかなか踏み切れないというという話もある。だが、根幹に関わらないところから試すことはできるだろう。
また、以前は必要なソフトウェアの全てを自社開発していたが、例えばSLAMなどではOSSの普及によって自社でゼロから作り上げる必要性が低くなっている。プロジェクトのスピードを上げるうえでは既存のソフトウェアは活用すべきだし、その活用によって、OSSの効果をより実感できるだろう。
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