マツダ「アクセラ」の3つのグレード、エンジンの違いでどんな個性が?:乗って解説(3/3 ページ)
マツダが2016年7月に一部改良を実施して発売した「アクセラ」は、一見すると控えめな変更しか分からない。しかし、実際に乗り比べてみると、従来モデルとの違いやパワートレーンごとの個性が見えてくる。他社とは異なるマツダの運転支援技術についても、搭載の狙いを聞いた。
ドライバーを甘やかす技術? G-ベクタリング
今回のマイナーチェンジでアクセラに新たに採用された車両運動制御技術「G-ベクタリング」。コーナーの入り口でステアリング操作を検知すると、エンジンのトルクを落として前輪への荷重を増やし、安定性や快適性を高めるという技術である。本来、運転熟練者が無意識に行っている操作をクルマが行うことで、スムーズで効率的な車両挙動を実現できるという。
マツダはエンジンの制御やドライビングポジション、サスペンションのチューニングなどで人馬一体を追求し、ドライバーを育てるクルマを作るメーカーだと思っていた。ところが、G-ベクタリングはクルマが勝手に減速を介助してコーナリングをスムーズにする。
メーカーとしての立ち位置とG-ベクタリングは、やや矛盾しているイメージもあるのだが導入した理由は何なのだろう。今回のマイナーチェンジでアクセラの開発主査を務めたマツダの柏木章宏氏に尋ねてみた。
レーシングドライバーにもありがたみがある技術
「G-ベクタリングの導入に関しては、社内でもかなり論議がありました。しかし、G-ベクタリングは決して初心者向けの技術ではないんです。運転に長けた上級者にも役立つもので、レーシングドライバーに乗ってもらっても、直進状態でステアリングによる修正の頻度が減ることが分かっています。運転していて疲れない、余裕ができるというのは、プロの運転技術をもってしてもありがたい機能だといわれました」(柏木氏)。
今回のアクセラの試乗では、G-ベクタリングの制御が働くのを見てみようと実験してみた。首都高速でMTモードで変速機を固定し、あえてアクセルも一定のままコーナーを走った。その結果、1度だけタコメーターの針が目盛りの半分、およそ100rpm低下したのを確認できた。一般のドライバーは運転中に機能の恩恵を体感できることはあるのか。
「G-ベクタリングが動作しても実際に発生するGは0.05G、最新のエレベーターと同等の加速度なので、ほとんど体感できないんです。オフにする機能がないため、乗り比べてもらうことはできませんが、もし乗り比べれば違いを体感してもらえるくらい、効果はあるものです」(柏木氏)。
スポーツモードは誰のために?
“オフにする機能”で思い出したのが、15SのATに搭載されているモード切り替え機能だ。今回のマイナーチェンジで導入された装備である。
新世代商品群のアクセラが発売された当初、「スポーティーに走りたい時や燃費性能を優先したい時など、エンジンやシフト制御のモード切り替えが必要ではないか」と当時の主査らに質問したのだが、乗りやすさとスポーティーさを両立させた特性にそうした機能は不要と判断にしたと聞いたことがある。
その返答から一転し、今回スポーツモードとの切り替えスイッチを搭載したのは、どういった理由からなのだろう。
「あのスポーツモードは、どちらかというと初心者向きの機能なんです。例えば都市高速の入り口ランプなど、上り坂での合流といった強い加速が必要な時でも、アクセルペダルを十分に踏み込めないドライバーもいます。そういうシーンで役に立つ機能であって、そのままスポーツモードで走り続けるということが本来の使い方ではないんです」(柏木氏)。
G-ベクタリングと同様に、ドライバーをサポートする機能ということのようだ。スイッチ操作で目的地まで運転してくれる完全自動運転は目指さないと断言したマツダは、ドライバー自身が運転しやすいよう支援する環境を徐々に整えていく姿勢だ。
関連記事
- ≫連載「乗って解説」バックナンバー
- 「魂動デザイン」は足し算ではなく引き算
車両デザインを通して、「デザイン」の意味や価値を考えていく本連載。第1回はマツダの「魂動(こどう)デザイン」を取り上げる。「CX-5」と「アテンザ」の“大幅改良”から、魂動デザインが目指すものが見えてきた。 - 造形とボディーカラーでマツダだと分からせるための工夫
2012年2月にマツダがSUV「CX-5」を発売して4年余り。コンパクトカーの「デミオ」や、「アテンザ」「アクセラ」「CX-3」「ロードスター」、北米向けの「CX-9」や中国向けの「CX-4」に至るまで「魂動デザイン」の展開が進み、統一感を持ったデザインの新世代商品群がそろった。同社デザイン本部の玉谷聡氏に、マツダを象徴する造形とボディーカラーについて聞いた。 - 「SKYACTIVエンジン」は電気自動車と同等のCO2排出量を目指す
好調なマツダを支える柱の1つ「SKYACTIVエンジン」。その開発を主導した同社常務執行役員の人見光夫氏が、サイバネットシステムの設立30周年記念イベントで講演。マツダが業績不振にあえぐ中での開発取り組みの他、今後のSKYACTIVエンジンの開発目標や、燃費規制に対する考え方などについて語った。その講演内容をほぼ全再録する。 - マツダはロータリーエンジンをあきらめない、本格スポーツ「RX-VISION」公開
マツダは、「東京モーターショー2015」において、次世代ロータリーエンジン「SKYACTIV-R」を搭載する本格スポーツカーのデザインコンセプト「Mazda RX-VISION」を初公開した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.