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人工衛星「ひとみ」はなぜ失われたのか(中編):いくつもあった運命の分岐点(2/3 ページ)

ISASの科学衛星としては初めてフル冗長構成を採用するなど、高い信頼性を実現したはずの「ひとみ」(ASTRO-H)は打ち上げ1カ月あまりで崩壊した。その原因は「3つの異常」であるが、どのような措置や手段が執られていれば、異常は発生しなかったのか。

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なぜあのタイミングで姿勢制御を行ったのか

 そして最も大きな疑問は、スタートラッカに問題があることが分かっていながら、なぜ内之浦から通信できない不可視の時間帯に姿勢制御を行ったのかということだ。事故のきっかけとなったのは、観測対象を変えるために、3:01から3:22まで実施した姿勢変更である。ちょうど内之浦の可視が3:13に終わったばかりで、この先20時間も可視がない。

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内之浦(USC)の可視が終わるタイミングで姿勢変更を実施した

 それまでの運用では、姿勢変更後の可視ですぐに衛星の状態を確認しており、長時間確認できない時間帯に実施するのは、このときが初めてだった。いずれはそういった運用を行う必要はあったものの、まだ定常運用ではなく、試験運転の段階である。もっと慎重になるべきで、JAXAも調査報告書で「結果的には時期尚早であった」と指摘している。

 もし、姿勢変更後すぐに内之浦の可視があれば、STTの値が棄却されている状態に気付いただろう。それなら、この時点でコマンドを送って、衛星の回転を止めることができたはずだ。

 また内之浦の後、海外局の可視が3回あったものの、JAXAが異常に気がついたのは、通信が途絶した4回目の可視においてだった。海外局の可視ではリアルタイムの監視は行っておらず、衛星からのテレメトリーは後で解析する体制になっていたのだが、そのテレメトリーには、姿勢異常を示すデータが残されていた。

 打ち上げ直後のクリティカルフェーズでもなければ24時間体制の監視は難しいだろうが、海外局で受信したテレメトリーを自動解析して、異常があればすぐにアラートを出すような仕組みは考えられるだろう。今回については、それで事故が回避できたかどうかはなんとも言えないが、そのくらいはやっておくべきではないだろうか。

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異常1の動作遷移図。もし緑のパスを通っていれば、事故は防げた

なぜ姿勢異常に気が付かなかったか

 2つ目の異常は衛星の姿勢が大きくズレたために、リアクションホイールのアンローディングが正常にできなくなったことだ。この結果、リアクションホイールの回転数が上昇し続け、ついには上限に到達。衛星にとっては最後の手段であるセーフホールドモードが発動することになる。

 ひとみはこのとき、静止しているつもりでも、実際には21.7度/時で回転していた。これはゆっくりとした速度ではあるが、4時間ほどで衛星はほぼ直角に向きを変える。そのため9:52〜10:04の海外局の可視では、バッテリーを使うほど太陽電池の発生電力が低下していたのだが、それでも衛星は最後まで、姿勢の異常には気が付けなかった。

 ひとみには太陽センサーが搭載されており、この検出を利用していれば、姿勢の異常に気がついたはずだ。しかし、実際には使われていなかった。これは、太陽センサーの計測範囲(20度)が狭かったためだ。ひとみは観測のため、太陽に対して最大30度まで傾けることができる。しかし太陽センサーを使えば、20度以上のときに異常と判断してしまう。

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ひとみの構造。太陽センサー(CSAS)は両翼の中央部分にある

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