「100年防食」を誇る町工場はリーマンショックにも動じない:イノベーションで戦う中小製造業の舞台裏(9)(4/4 ページ)
自社のコア技術やアイデアを活用したイノベーションで、事業刷新や新商品開発などの新たな活路を切り開いた中小製造業を紹介する本連載。今回は、「100年間、鉄を錆びさせない」という表面処理加工技術を持つ新免鉄工所を紹介する。リーマンショックにも動じず、間もなく創業100周年を迎える同社の強みに迫る。
取引先との関係構築でリーマンショックにも動じず
創業から100年の間には、幾つもの社会的な経済危機を乗り越えてきているはずだ。その点を尋ねると、新免氏は「あまり感じたことはありません」という。
リーマンショックのときにも、大きな影響を受けなかったそうだ。「うちは、たくさんの取引先様とお付き合いがあるから」というのが、理由だ。
毎月、定期で入ってくる仕事は5〜10社に限られている。しかし、半年に1度、数年に1度、一品物を持ち込む取引先が500社ほどあるという。
毎回、同じことを丁寧に繰り返し、取引先を大切にしてきた。「100年間、大きく儲かるわけではないけれど、不況時に会社の進退を心配しなければならないようなことも起きなかった」(新免氏)。
「会社が継続してきているのは、これまで仕事をしてきたOB達が積み重ねてきた信頼がつながっているから」と、新免氏は常に従業員に伝えているという。今も、その信頼に恥じないように、丁寧に仕事をしている。
ブラスト加工も溶射も最終的には塗装に隠れてしまう技術ではあるものの、その見えないところに気を配る。その精神をずっと続けていけば、鉄鋼があるかぎり同社の技術は必要とされる。新免社長は「新たな事業に手を広げるよりも、一品一品を丁寧にやって今まで通り日本の産業を支えていきたい」という。
しかし、国内で鉄鋼を使って製品を作る会社が減ってきているのも事実だ。溶接工や機械加工の技術者も減少してきている。将来を見据えると、日本の社会全体が先細りになっていくのは、避けられないだろう。
同社は今、ベトナムからの研修生を受け入れている。2017年の冬には1期生が帰国する。彼らがベトナムでブラストをやっている企業で働いて、同社で学んだ技術を役立ててもらいたいというのが、新免氏の望みだ。
ベトナムはこれから発展する国だ。「ベトナムからの研修生が自国に戻り、ウチで身につけた技術でベトナムのインフラを整えていくと考えると誇らしいですね」と、新免氏は照れたように笑った。
筆者プロフィール
松永 弥生(まつなが やよい) ライター/電子書籍出版コンサルタント
雑誌の編集、印刷会社でDTP、プログラマーなどの職を経て、ライターに転身。三月兎のペンネームで、関西を中心にロボット関係の記事を執筆してきた。2013年より電子書籍出版に携わり、文章講座 を開催するなど活躍の場を広げている。運営サイト:マイメディア
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