走行距離不安症の数学:SYSTEM DESIGN JOURNAL(3/4 ページ)
ハイブリッドカーやドローンなど、リチウムイオン(Li-ion)バッテリーを動力源とするものは増え続けています。電池切れや発熱、発火といったリスクへの対処は絶対必要ですが、Li-ionの管理は容易ではなく、数学的な手法が欠かせません。
複雑なアルゴリズム
こうした状況を見て、「これは隠れ状態を持つシステムなのだ」と考える設計者もいます。そうしたシステムを正確にモデル化でき、そのモデルによって、たとえノイズが多く信頼できない予測でも、外部から測定可能な状態から隠れた状態を予測することが可能な場合、隠れた変数を推定する既知の手法があります。この場合、セル温度、電圧、負荷電流などの値に基づいて充電状態を推定するということです。その手法とはカルマン・フィルターです。
カルマン・フィルターは、統計的管理理論家らに愛され、多くの技術者たちから恐れられている反復デジタル計算で、仮定が満たされた場合、外部から測定可能な状態変数を繰り返しサンプリングすることにより、システム内部の隠れ状態を正確に追跡することが可能です。
最大の利点はシステム状態の測定と知識の両方に大きなノイズが存在していても機能することであり、航空機誘導システムからスマートビークルのセンサーフュージョン、ブラシレスモーターのシャフト位置推定に至るまで、一見共通性のない幅広いアプリケーションに広く利用されています。もちろん、リチウム・バッテリーの充電状態の推定にも使用されています。
カルマン・フィルターは、推定対象のシステムのモデルから始まります。このモデルは、その時点(時間 t とします)におけるシステムの状態変数を、直前のサンプル時間 t-1 における状態変数と制御入力変数に単純なガウス・ノイズを加えた線形結合として表します。カルマン・フィルターが数学的に分かりにくい理由の1つは、ノイズの追加により、状態変数がスカラでなく、ガウス確率関数となることです。そのため、数学者は共分散行列について詳細に扱うことができ、ほとんどの場合、本当に注意を払うべきことは確率分布の平均だけです。
モデルの大きな重要性は、測定可能な変数と測定不能な変数の間に関係を生み出すことです。そのため、前のサイクルで観測可能な挙動に基づいて、システム内部の隠れ状態を予測します。当然ですが、カルマン・フィルターがノイズや不確かさの影響を受けずにうまく機能するかどうかは、モデルの品質に左右されます。
リチウムイオンバッテリーの場合ならば、外部電圧および電流の測定によって各セルの充電量を推定しようとしていることから、セルの正確な等価回路が不可欠です(図 3)。次に示すモデルは、ピサ大学の研究者が開発した比較的単純で正確なモデルです。これにはセルの内部力学の一部が含まれていますが、アプリケーションによっては著しいことがあるヒステリシスのような挙動は除外されています。
ここまで注意深く読んできた方ならば、問題に気付いているかもしれません。このモデルは、現実の世界ではよくあるように、状態変数の連続サンプル間の直線関係が得られません。開発者はテイラー展開を利用し、拡張カルマン・フィルターと彼らが呼ぶ方法で局所的線形モデルを生成することにより、これを解決しています。
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