走行距離不安症の数学:SYSTEM DESIGN JOURNAL(2/4 ページ)
ハイブリッドカーやドローンなど、リチウムイオン(Li-ion)バッテリーを動力源とするものは増え続けています。電池切れや発熱、発火といったリスクへの対処は絶対必要ですが、Li-ionの管理は容易ではなく、数学的な手法が欠かせません。
単純か、複雑か
バッテリー管理に関する決定がコストだけで決まるときもあります。クアッドコプターを50ドル以下で販売する場合、高価なシリコンを実装するコスト的余裕はありません。そうした状況では、最も安上がりな充電状態(SOC:State of Charge)推定手法が取られることがよくあります。それは出力電圧の測定です。原理上、リチウムイオン・バッテリーの開回路電圧はセル放電に伴って降下します(図 2)。
短い初期降下の後、通常はわずかながら単調に降下し、セルが完全放電に近づくと急激に降下し始めます。そのため、単純な電圧測定で確実な降下を検出しても、安全にミッションを中止するには遅すぎるのです。充電サイクルも同様で、開回路電圧の急上昇を検出してからでは、危険な発熱を防止するには遅すぎます。
この段階的な勾配は測定可能です。しかし、電圧を安定化させて開回路測定を行うのに十分な時間を持ち、バッテリーを頻繁に浮動させることができるシステムはまれです。また、電圧は充電範囲のほぼ全体に渡って、充電状態よりもむしろ負荷電流の影響や温度、経年、充電履歴など変動要因の影響を受けます。
複数の高電流モーターを駆動するシステムにおいて不可避な測定ノイズを加味すると、この手法には大きな疑問の余地があります。また、直接電圧測定の精度が10〜20%を超えることはめったにない、と主張する情報源もいくつかあります。これによって「今夜必ずPHV車の充電を行おう」という思いにはなっても、部分充電で職場から必ず自宅にたどり着けるという確信を持てるまでには至りません。
しかし、困難が果敢な技術者を思いとどまらせることはありません。電圧を測定するだけでは正確な推定が得られないのであれば、誤差原因も測定し、修正してみたらどうでしょうか。
この方針に従った場合、バッテリー管理システムに温度や電流のセンサーならびにローパスフィルターを追加することになり、コストと複雑さが増します。しかし、それでも特定バッテリーに合わせてアルゴリズムを調整する方法がない限り、必ずしも精度が向上するとは限りません。
全く異なるアプローチとして、クーロンカウンティング(coulomb counting)があります。これはバッテリーを電荷の容器と見なし、入ったものは必ず出てくるという考え方です。実際、リチウムイオンバッテリーは電荷保持特性が良好なため、短時間の概算としては悪くありません。電流を測定すれば、バッテリーに入る電荷量とバッテリーから出てくる電荷量を計算することが可能です。これで問題が解決すればよいのですが、実際にはそれほど単純な話ではありません。
クーロンカウンティングを機能させるためには、初期充電状態を知る必要があります。もちろん、変化をモニターし、バッテリーが完全充電状態に近づいたときに開回路電圧の明らかな上昇を検出することは可能です。しかし、その時点での実際の完全な充電量を知るには、やはりセルの履歴を参照する必要があります。
しかも、電流測定値にDCオフセットがわずかでもあれば、時間と共に誤差が累積し、充電推定に偏りが生じることになります。そのため、既知の充電状態へのリセットをかなり頻繁に行う必要が生じます。また、ほとんどの使用シナリオでは、その時点での実際の容量を知るためにセルを完全充電または完全放電するまでユーザーを待たせることは不可能です。さらに、セル温度や経年劣化によって変化します。
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