HILSとアクチュエータ:いまさら聞けないHILS入門(4)(4/4 ページ)
車載システムの開発に不可欠なものとなっているHILSについて解説する本連載。今回は、前回取り上げたセンサーとともにHILSの入出力インタフェースのポイントとなるアクチュエータの回路と機能について分析し、ECU出力に対するHILSインタフェース回路の仕様について考えます。
スロットルモーター回路
スロットルモーターは、スロットルバルブを開閉両方向に作動させてスロットル開度を制御します。このため、ECU内部に図1に示すモーター駆動回路を備えます。モーター駆動回路は、図6に示すHブリッジという4つのトランジスタを組み合わせた回路と、CPUからのモーター回転指令値を個々のトランジスタの作動信号に変換するロジック回路から構成されています。Hブリッジ回路は、対角方向のトランジスタのペアを同時に開閉することにより、モーター端子に加える電圧の方向を切り替えて、開方向にも閉方向にもモーターを作動させる回路です。
実機のモーター駆動電流は、次のような特徴があります。
- モーター駆動電圧は、一定周波数(数kHz)のパルス波形で、回転方向によってプラスのパルスとマイナスのパルスの電圧が加えられる
- 大きな駆動力を発生させるときはデューティー比(パルスの幅)を大きくし(平均電流大)、駆動力が小さいときはデューティー比を小さくする
- モーターが回転すると発生する逆起電力によってモーター駆動電流は減少する
- 個々のパルスの中でモーター駆動電流は、モーターコイルや磁気回路によって過渡的に変化する
これらの中で1.と2.は、モーターの回転を決定する上で必須です。パルス波形の極性とデューティー比を得て、モータープラントモデルは駆動力を計算します。その結果からモーター回転数を求め、スロットル弁の開度が求まります。
3.の逆起電力に関しては、ECU出力電流を実機と同等にするために必要です。しかし、モータープラントモデルは、逆起電力の影響を内包している場合が多く、そこでは、モーター駆動電流を必要としません。本HILSもこのケースに該当するので、逆起電力による電流減少は考慮しないこととします。
4.の電磁気回路による過渡変化は、電気自動車の発進時の振動や騒音課題に関わるような精密な制御を行うには無視できない現象です。ただし、スロットル制御に使われるような小さいモーターは、個々のパルスレベルの過渡的な影響は小さいので、本HILSでは考慮しないこととします。過渡特性を考慮する場合は、モデルではなく実機部品をHILSに組み込む方法も選択肢の1つです。
次にインタフェース回路の要件を考えます。
- Hブリッジ回路の動作を受けて、正逆両方向ともに駆動パルス電流を流し、デューティー比が実機と同様であること
- ECUが、出力電流を監視している場合があるので、電流が過大、過小にならないように疑似負荷に流れる電流は、平均値で実機に近いものとする
- 測定回路は、駆動パルスのプラスマイナスを区別できるとともに、デューティー比を測定可能であること
これらの要件を満足するHILS回路の一例として、図7を示します。疑似負荷回路は、単純な抵抗です。抵抗値は、実機のモーターオン時の平均電流から抵抗値を設定します。
測定回路Aは、コンパレータとパルス測定回路を2組用いて、プラスパルスとマイナスパルスを別々に測定する回路を示します。
測定回路Bは、A-Dコンバータを使用する例です。回路は単純ですが、高速に電圧を測定できる回路が必要になることに加えて、電圧データからプラスマイナスのデューティー比を求める作業のためにHILSコンピュータに余計な負担が掛かります。
本HILSでは、測定回路Aを使用します。
ECU出力に対するHILSのインタフェースについても実機になるべく近いものにすることが原則です。しかし、ECU入力に対するインタフェース回路と同様、ECUが正常に作動することを最低限満足すれば、テストの必要性に応じてなるべく単純な回路を作りこむことによって、使いやすく低コストのHILSを実現できます。
次回は、HILSの中心となるプラントモデルについて考えてみたいと思います。
筆者プロフィール
高尾 英次郎(たかお えいじろう) 「HILSとTestの案内人」
1950年生まれ。岐阜大学機械工学科卒業。三菱重工で大型船のエンジン・推進装置などの修繕業務を担当の後、三菱自動車(現三菱ふそうトラック・バス)に転籍。エンジンの燃費向上・排出ガス低減研究、車両の燃費向上研究を10年余および電子実験、電子設計などを20年余担当。ITKエンジニアリングジャパンを経て、現在はHILSとHILS Testにフォーカスしたコンサルティングを行っている。
HILSとの関わりは、バス用の機械式自動トランスミッション開発中に、ECUのソフト検証用として1990年にMS-DOS PCを使ってHILSをゼロから自主開発して以来のもの。
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