“町の工務店”成長の秘訣は新卒採用の継続にあり:イノベーションで戦う中小製造業の舞台裏(8)(4/5 ページ)
自社のコア技術やアイデアを活用したイノベーションで、事業刷新や新商品開発などの新たな活路を切り開いた中小製造業を紹介する本連載。今回は、高度成長期に創業した典型的な“町の工務店”を継いだ2代目社長の奮闘を紹介する。売り上げアップの秘訣は、新卒社員採用の継続にあった。
新卒社員の採用が、会社を変えた!
当時の従業員の年齢は棟梁が60代。その次が40代。後継の職人を育てようと中途採用を試みた。即戦力にはなるが、愛社精神をもって働いてくれる人には、なかなか出会えなかった。一概には言えないが、職人の世界にはすぐ辞めていく人も多い。だまされたことや、つらい思いをしたこともあるそうだ。
そんな吉武工務店に、初めて新卒の大学生が入社したのも同友会がきっかけだ。中小企業の経営者が、学生に自社の魅力をPRするイベントがあって参加した。吉武工務店の「夢を語る企業説明会」にも大学生が来てくれた。
吉田社長は、説明会で自社の内情や企業理念、何よりも「自分は建築の仕事が好きだ!」という思いを率直に伝えたそうだ。
社員が会社に拘束されるのは、勤務時間だけではない。通勤時間も仕事のために費やす時間だし、休憩時間も社内で過ごす。朝起きて仕事に行こうという時に、何となく「嫌だな」と思うか、「さぁ、行こう!」と思うかで、仕事に対するモチベーションは大きく違ってくる。
社内が気持ち良く働ける空間であれば、作業場とは別にリフレッシュする空間があれば、自然と愛社精神が生まれ、生産性も上がる。建築の仕事は、空間のデザインで人が生きていくための活力やものを与えられる。
採用の条件だけではなく、そんな風に“建築業の面白さ”を伝えると、「一緒に働きたい」という学生が現れた。
学生が就職を望んでくれても、「名前を聞いたこともない会社で大丈夫か?」とご両親が心配する。だから、内定した学生の実家にあいさつへ行き、年末の餅つきなど社内行事にも誘い、会社を知ってもらうように努めたという。
新卒の新入社員は、会社に大きな変化を与えた。
経営者として、中途採用で入ってきた社員には即戦力としての期待が大きかった。しかし、新卒の社員はそういうわけにはいかない。彼らにとって、社会に出て最初に出会う大人が自分たちということになる。
そう思うと、社会人の心得を1つ1つを教えていかなければならない。彼らをこれまで育ててきたのはご両親だが、社会人として育てていくのは自分たちだと思うと、自然と襟をただす気になる。
古参の職人さんも、朝のあいさつからして変わった。会社の雰囲気が、キビキビとしたそうだ。
丈彦氏は、新入社員の彼に「これからは、毎年新卒の社員を採る」と約束したそうだ。職場に同僚がいないと、仕事をしていても楽しくない。彼と一緒に働く仲間を増やしていくと決めた。
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