石こう型技術で人工乳房事業を創出、事業継続へ――女性として、経営者として:中小企業のモノづくりイノベーション(1)(2/3 ページ)
大学で教鞭を取る准教授が日本のさまざまなモノづくり中小企業の事例を紹介する本連載。今回は愛知県常滑市のマエダモールドを訪問。同社の人工乳房事業が誕生した経緯を聞いた。
そこで、決定的な役割を果たしたのが、前田社長の夫人の前田一美氏(現 人工ボディー事業部事業部長)である。
人工乳房事業への技術応用
前田部長はマエダモールドの売上が低減傾向にある中で、「自社の石こう技術が何かに生かせないか」とアンテナを張り、事業化の可能性を探っていたのだが、結果が芳しくないことが続いていた。
ある時、テレビのニュース番組を見ていると、耳や鼻、乳房のエピテーゼ(人体に貼り付ける人工物)が取り上げられ、それらを制作している現場に石こう型が置かれているのが目に入った。このとき、頭の中で、マエダモールドの石こう型技術と自身の心の中の思いや情景がつながった。
前田部長は
「エピテーゼだったらうちの材料で、うちの石こう型で、うちの職人ができる。そうすれば、もっと良いものができるかもしれない」
と考えたのである。
前田部長は結婚して常滑に来る以前、看護師として働いていた。少年期から青年期の一時期に体が弱かったこともあり、病気や障がいに苦しむ人たちの手助けをしたいという思いを心に強く持っていたのである。自分自身も女性ということもあり、乳がんで乳房を失った女性のための人工乳房の制作に焦点を絞る。人工乳房の制作技術を学ぶためのスクールに通いながら、2年間、自社内外で事業化のための試行錯誤を繰り返す。
ついに人工ボディー事業部を設立し、人工乳房を制作するようになった。当初は使用者の女性一人一人に対応した人工乳房を提供することを考えていた。そうしたオーダーメイド品はどうしても高額になってしまう。その結果、当初は1カ月に1人、顧客がいればよい方だった。
さらに試行錯誤を繰り返す中で、前田部長は徐々に
「人工乳房というものは、一人一人の女性へ“完璧に”マッチする必要があるのだろうか? そもそも乳房には左右差もあるのだし、胸に付けるブラジャーだって全てがオーダーメイドではない」
と考えるようになった。
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