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石こう型技術で人工乳房事業を創出、事業継続へ――女性として、経営者として中小企業のモノづくりイノベーション(1)(3/3 ページ)

大学で教鞭を取る准教授が日本のさまざまなモノづくり中小企業の事例を紹介する本連載。今回は愛知県常滑市のマエダモールドを訪問。同社の人工乳房事業が誕生した経緯を聞いた。

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 その結果、規格品/既製品としての人工乳房という発想にたどりつく。それが常滑焼の関係者や近隣の病院関係者の共感を得たのである。マエダモールドの人工乳房は口コミで伝わり、マスメディアに取り上げられるようになった。顧客が劇的に増えてたことで、同社の売り上げの多くを当該人工乳房事業が占めるようにもなった。すなわち、イノベーションを起こすことで、事業転換を図られ、事業継続を成し遂げたのだといえる。


マエダモールドの人工乳房

既存技術を経営者の思い、経験、視点に結び付ける

 冒頭で述べたように、マエダモールドには常滑焼から、タイルなどの建材、電子部品に至る石こう型の製作技術が存在していた。そこに前田部長の思い、経験、女性としての視点、そして家族企業の経営陣の1人としての行動が結び付くことで、人工乳房事業というイノベーションが起きたのだといえる。

 なお、前田部長は常滑市という地域に対して、

「私は常滑焼が大好きで、常滑市が大好き。常滑という中央からは離れた場所で、素晴らしい焼き物が作られている。常滑焼は奥が深く、魅力的なものがある。だから、魅力的なものが作れるのだと思っている」

と述べている。

 この言葉からは、マエダモールドの人工乳房事業は上述した地域への思いと、地域からのバックアップが相乗効果を起こした結果という見方もできるのではないだろうか。

 このように自社で長年、培われてきた既存技術や自社が立地する地域を大切にし、理解しながら、それを全く違った事柄に結び付けること、それこそが優れた成形・加工技術を有する日本のモノづくり中小企業の事業継続にとって必要なことなのだといえる。

Profile

山本 聡(やまもと さとし)

1978年生まれ。機械振興協会経済研究所を経て、2012年4月より、東京経済大学 経営学部 専任講師、2015年4月 准教授(担当 中小企業経営論)。

金型や部品加工など、素形材産業を主な対象としながら国内・海外の中小企業の経営体制の変化を解明することを研究テーマとしている。学術論文や書籍に加え、経営者や技術者向けのレポートを精力的に執筆する一方、国内外でさまざまなセミナーの講師も務めている。


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