石こう型技術で人工乳房事業を創出、事業継続へ――女性として、経営者として:中小企業のモノづくりイノベーション(1)(1/3 ページ)
大学で教鞭を取る准教授が日本のさまざまなモノづくり中小企業の事例を紹介する本連載。今回は愛知県常滑市のマエダモールドを訪問。同社の人工乳房事業が誕生した経緯を聞いた。
モノづくり中小企業とイノベーション
日本のモノづくり中小企業を取り巻く経営環境は急激に変化している。為替の変動や人口減少、日本の大企業の生産・調達方針の変更、特に海外生産や海外調達の進展、そして、アジア企業の競争力の大幅な伸長などが相互に絡み合いながら、日本のモノづくり中小企業の経営に多大な影響を与えていえよう。こうした中で、廃業を選択する企業も少なくない。実際、日本のモノづくり中小企業の数は減少の一途をたどっていて、1995年と比較すると、2012年の事業所数は45%とおおよそ半分になっている。廃業率が開業率を上回り続けているため、事業所数は今後も減少傾向をたどっていくだろう。
それでは、モノづくり中小企業、その中でも素形材など基盤産業に携わる企業はどのように事業継続を果たしていけばよいのだろうか。上記の問いに対する回答のヒントになるのが、「イノベーション」である。経営学の標準的な教科書をひも解けば、イノベーションには5つの種類があるとされ、それらは「新たな製品」「新たな生産方法」「新たな原料供給源」「新たな市場の開拓」「新たな組織の実現」と表現される。日本のモノづくり中小企業はさまざまな方法で、イノベーションを起こすことにより、上述したような経営環境の変化に対応し、それを克服し、事業継続を果たすことができるといえるだろう。
なお、イノベーションは「新結合」とも称され、何かと何かを結び付けることで起きるとされている。日本には優れた成形・加工技術を有しているモノづくり中小企業が多々存在する。しかし、そうした技術「だけ」では経営上、配慮不足になってしまうことが少なくない。経営者が当該技術に何かを+αすることで、初めて、イノベーションが生じるのである。
本稿では数回にわたって、日本のさまざまなモノづくり中小企業の事例を取り上げる。日々の経営に試行錯誤しながら、イノベーションを起こすことで、事業継続を果たさんとする経営者の姿を報告したい。
焼き物の街の石こう型企業
マエダモールド(創業1954年、従業員数12人)は愛知県常滑市の企業である。同社は典型的な小規模家族企業であり、創業者は3代目・現社長の祖父が、いわゆる「常滑焼」の石こう型を作り始めたのがその起源である。当初は急須や招き猫といった焼き物や陶器の石こう型を作っていたが、徐々にタイルの意匠といった建材の石こう型を手掛けるようになり、さらには電子部品や液晶のセラミック基板の石こう型まで守備範囲を拡大していった。
同社の製造現場には、
「いろんなものに興味を持ち、どんなに難しい仕事でも取りあえずやってみる」
というオープン・マインドな気風が色濃く存在していたとのことである。「マエダモールドならば難しい仕事でも何とかやってもらえる」という評判が生じるのに時間はかからなかった。その中で、ある大手企業との取引が拡大していき、売上の多くを依拠するようになる。しかし、5年ほど前から、当該企業が海外展開を進展させるようになり、それに伴って、経営に陰りが見えるようになる。こうした中で、3代目・現社長の前田茂臣氏は新たな事業を模索していく。
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