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スペースデブリ問題に取り組むベンチャーのCAE活用CAE事例(3/3 ページ)

対策が急がれるスペースデブリ(宇宙ゴミ)問題に先陣を切って取り組むのがアストロスケールだ。同社はPLMベンダー主催イベントでデブリの現状や同社の取り組み内容を紹介するとともに、デブリの除去を担う人工衛星の構造解析の事例を紹介した。

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人工衛星の要求項目

 人工衛星に要求される項目は主に、「全ミッション期間を通して各搭載装置を保持することができる」「打ち上げ時に共振を起こさない」「機械環境条件に耐える強度を持つ」「観測機器のアライメント要求を満たす」「熱および電気的要求を満たす」といったことになる。

 そのうち構造解析に関するものとしては、打ち上げ時の共振、および打ち上げ時や地上取り扱い時の衝撃に耐えられることを前もって確認する必要がある。打ち上げ時には準静的加速度と呼ばれる5〜6Gの加重が継続的に掛かる。同時に衛星とロケットの結合部分に振動が発生する。また打ち上げの際には衛星はフェアリングでおおわれているが、内部ではロケットの燃焼によるごう音が反響し、音響振動が発生する。また衛星分離時やロケットの2段目以降の再着火時などには瞬間的に大きなGが掛かるため、これらに耐えることも必要だ。

 強固な構造にすればこれらの問題をクリアできるが、ロケットの打ち上げ能力やコストの問題から、衛星のサイズと重量には制約が生じる。さらに衛星のミッションに使用するための機器になるべく重量を割り当てるため、構造重量は衛星の全質量の10〜20%に抑える必要がある。これらの事前検証のために構造解析ツールが使用される。

解析が専門でなくても容易に作業できる

 アストロスケールでは構造解析にFemap with NX Nastranを使用し、衛星の製造前に設計が妥当かどうかの確認を行っている。FemapはWindows上で利用できる有限要素解析向けプリポストプロセッサで、Nastranのプリポストとしても長年の実績がある。Femap with NX Nastranは有限要素法ソルバーNX NastranとFemapが一体になったCAEツールで、PC上で解析モデルの作成から解析、結果表示までを1つのソフトウェア上で実施できる。

 同ツールを選んだ理由の1つはFemapの使いやすさにあるという。同社には解析の専門家はいないが、大学で解析に触れた経験がある程度の人も直感的に操作できるという。また同社は多くの企業や大学と協力しているため、さまざまなCADデータを扱うことになる。その際も同ツールは複数のデータ形式に対応しているため便利だという。

 なおNastranは本来、航空宇宙分野での利用を目的に開発されており、本事例のような人工衛星の解析に関しては、データやりとりの面などでも有利になる。また解析を外部に委託すると設計変更のたびにコストが跳ね上がる。解析環境を自社で持つことの費用効果は高いという。必要な機能を選択して導入できるのも良い点だということだ。

設計・解析から製造までの流れ

 設計から製造までの構造解析を含む流れは例として以下のようになる。まずCADモデルを作成し、解析ツールで構造解析を行い、問題があればCADデータの修正に戻るというサイクルを繰り返す。続いて放熱や構造に関する検証を行う「熱構造モデル」を製造し、組み上がりなどを確認するとともに、振動試験などの構造試験を行う。問題があればCADモデルの修正に戻る。

 うまくいけば「エンジニアリングモデル」を製造する。これは打ち上げるモデルと搭載機器なども含めてほぼ同じになる。ミッション機器の機能確認を行うとともに、熱真空、温度サイクルや振動、衝撃などの試験を行う。最後に実際に打ち上げる「フライトモデル」を製造し、最終試験を実施する。

筐体の解析を行う

 図3がIDEA OSG 1の解析例だ。左の2点は外観、右上の2点はメッシュモデル、右下の2点は固有値解析を行い変位量をカラーで表示したものだ。図中の白い点および線は、搭載機器の質量を模擬した質点およびそれをつなぐ解析剛体になる。左の解析図はフレームおよび仕切りの板、右の解析図は太陽電池の付いた外面になる。


図3:IDEA OSG-1の解析例。固有値解析を行い、内部の仕切り板や太陽電池取り付け面のたわみなどを確認している(出典:アストロスケール)

 図4も同じく固有値解析になる。下面がロケットの打ち上げ時に固定する面になる。


図4:ADRAS 1の熱構造モデルの解析例。固有値解析を行った例(出典:アストロスケール)

 荒木氏は、Femap with NX Nastranによって、設計の段階から比較的容易に短時間で人工衛星の構造に関する性能を評価できると語った。アストロスケールでは今後より解析技術を磨いて、現在は複数制作している試験モデルの制作数を減らし、コスト削減、開発期間の短縮につなげたいということだ。

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