スペースデブリ問題に取り組むベンチャーのCAE活用:CAE事例(2/3 ページ)
対策が急がれるスペースデブリ(宇宙ゴミ)問題に先陣を切って取り組むのがアストロスケールだ。同社はPLMベンダー主催イベントでデブリの現状や同社の取り組み内容を紹介するとともに、デブリの除去を担う人工衛星の構造解析の事例を紹介した。
衝突事故も発生
人工衛星は天気予報や衛星放送、GPS、また災害時や農業に活用されつつある地球観測衛星など、生活に欠かせない存在になっている。しかし、その運用にデブリが影響を与える事例が散見されている。
2009年には当時運用中だったアメリカの通信衛星イリジウムと、運用終了してデブリと化していたロシアの通信衛星コスモスが衝突した。また2013年にエクアドルが初めて製造した衛星が打ち上げられたが、突然音信不通になった。これはデブリ衝突が原因ではないかといわれている。また将来、月や火星への有人宇宙探査にも影響を与える可能性がある。地球以外の天体に行くためにはデブリの最も多い層を抜ける必要があるからだ。
こういったことから関係者の間でデブリ対策が必要だという点では一致している。ただ「誰がデブリの所有者か」といった問題もあり、なかなか具体的な取り組みは進んでいないという。国際的な機関である「機関間スペースデブリ調整委員会」(IADC:Inter-Agency Space Debris Coordination Committee)が、スペースデブリ低減のためのガイドラインを策定している。それによると、今後打ち上げられる衛星に関しては、運用終了の25年以内に軌道から落とすよう求めている。ただあくまで努力目標となっている。
デブリに取り付いて大気圏に落とす
アストロスケールは、1mm以下の小型のデブリについては防御、10cm以上については除去する方向で検討している。なお1ミリメートルから10cmについては、どう対処するか議論が必要な領域になるという。
1ミリメートル以下に関しては1億以上あるといわれているが、正確なところは分かっていない。そこでアストロスケールでは、まず分布状況を把握するために、「IDEA OSG 1」という微小デブリ観測衛星を開発中だ(図1)。金色の面には微小電流が流れる電線が数万本張られている。デブリが衝突したときに電線が切れることを利用し、その領域や時間から、宇宙空間におけるデブリのサイズや密度分布を調べる。
10cm以上のデブリについては、優先度の高いものから除去していく。そのために「ADRAS 1」という大型デブリ除去技術実証衛星を開発中だ(図2)。
この衛星は母艦となる「マザー」と「ボーイ」と呼ばれる子機から構成される。ボーイがマザーの中に収納された状態で打ち上げられる。目標のデブリをあらかじめ決めておき、打ち上げ後、イオンエンジンを使用してデブリに近づく。そしてデブリの周囲を周回する軌道に入り、デブリの状況を観察、ドッキングする場所を決定する。そしてボーイが接着剤によってデブリに取り付き、ボーイに搭載されている超小型ロケットブースターを使って、デブリの軌道を衝突の危険性の低い場所までずらし、最終的に大気圏に突入させる。
IDEA OSG 1は38×38×60cm、約30kg、ADRAS 1は60×60×100cm、約100kgとどちらも小型衛星になる。単独で打ち上げるとコストが上がるため、ピギーバック方式と呼ばれる大型の衛星と相乗りでの打ち上げを前提としている。IDEA OSG 1は2016年末から2017年初めの間にロシアのドニエプルロケットで打ち上げることが決定している。ADRAS 1は2018年第1四半期の打ち上げを予定している。
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