補聴器は“指向性”から“全方位”へ、ハイレゾ音質とIoT化も実現:医療機器ニュース(2/2 ページ)
オーティコン補聴器は、補聴器の新製品「オーティコン オープン」を発表した。最大の特徴は、従来の聞きたい方向の音だけを聞こえるようにする“指向性”を重視した補聴器と異なり、周囲360度“全方位”から聞こえる音の情景を自然に耳に届けるというコンセプトで開発されていることだ。
処理速度50倍の専用チップを自社設計
オーティコンのデンマーク本社で開発を担当したオーディロジー主監のトーマス・ベレンス氏は「当社を含めて補聴器メーカーは指向性に重きを置いて製品開発を進めてきた背景には、補聴器を必要とする難聴者にとって、自身の周囲で聞こえる音の中から、聞きたい音を選び出すのが難しいことがあった。周囲の音をただ増幅するだけでは、必要な音を選び出している脳の活動に大きな負荷が掛かってしまう。この負荷を避けるために指向性によって対応してきたのだ」と語る。
オーティコン オープンは、補聴器専用に自社で設計した新チップ「ベロックス」を採用した。従来品である「オーティコン アルタプロ2」のチップ「イニウムセンス」が4コアであるのに対して11コアを集積しており、補聴器に入ってくる音声を処理する速度は50倍に達するという。具体的には8コアで信号処理を行っており、その処理能力は500MIPS(1MIPSは1秒当たりの命令処理実行回数が100万回)、1200MOPS(1秒当たりの演算処理実行回数が100万回)に達する。この処理能力を使って周辺の音環境を毎秒100回以上分析し、64の信号処理チャネルによって、全方位から聞こえる音をあるがままの形で装用者に伝える。音圧の入力範囲も113dB SPLまでと高く、24ビットDSPを搭載することでハイレゾ音源クラスの音を再現可能だ。
残りの3コアはワイヤレス通信処理を担う。両耳の補聴器の間で情報をやりとりするNFMI(近接場磁気誘導)と、スマートフォンなどの外部機器と連携するBluetoooth Low Energy(BLE)という2つの通信方式があり、これらを総称して「TwinLink」と呼んでいる。従来で3倍というNFMIの通信速度によりより正確な空間認知が可能になる。
べロックスチップの性能は、周囲360度の音を分析してバランスを取り、ノイズ処理を行う「オープンサウンドナビゲーター」と、高音質での通信が可能なNFMIによる「音空間認識機能LX」という、オーティコン オープンの機能の実現につながっている。性能を大幅に向上しながらも消費電流は最大で3.3mAに抑えた。補聴器に用いられる空気電池の電流容量が5mAなので、全機能を使用しても音の聞こえ方なに影響は一切出ない。次の電池に交換するまでの動作時間も従来品とほぼ同等を確保できたという。
そしてオーティコン オープンは、装用者が音を聞き取る際に脳に優しいことも確認した。瞳孔の大きさから騒音下の聞き取り能力を数値化する「Pupillometry」により、疲れやすさを20%軽減、会話の覚えやすさを20%向上、複雑な環境下での会話の理解を30%向上できたとしている。
さらに、BLEを使えば「iPhone」などと連携してさまざまな機能拡張が可能になる。Webサービスの「IFTTT(IF This Then That)」を活用して、電子メールを受信したら知らせる、自宅のセキュリティシステムのオンオフ時に通知するといったさまざまな機能を装用者が自身で設定できる。「補聴器がIoT(モノインターネット)になるということだ」(木下氏)。
オーティコン補聴器は、同社業績の3〜5%を占めるハイエンド市場の比率を、オーティコン オープンの投入により3倍以上の15%まで高めたい考えだ。
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