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次の20年へ、電動アシスト自転車が迎える「第二の夜明け」小寺信良が見た革新製品の舞台裏(5)(7/7 ページ)

1993年に世界初の電動アシスト自転車「PAS」を発売したヤマハ発動機。この電動アシスト自転車という革新製品はいかにして生まれ、約20年が経過したこれからどのような進化を遂げようとしているのか。小寺信良氏が探る。

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「バイクのヤマハ」が作ったホンモノ

―― YPJ-Rはフレームのデザインもきれいですよね。これもブリヂストンサイクルさんとの協業なんでしょうか。

鹿嶋 いや、これはうちで新しく事業創造のチャレンジとしてやっていくということで、ブレーキやディレイラーなどは汎用品を使ってますけど、フレームに関しては完全にうちのオリジナルになってます。

 普通の自転車って、パイプの組み合わせなんですね。これはそうではなく、ユニットを前のギアの下で吊っています。ここの部分はアルミの鍛造ハンガーです。フレームのデザインから設計、3Dデータ作成まで社内でやり、それを海外に生産委託して、データ通りに作ってもらうという形です。

「YPJ-R」のモーターユニットは車体からつり下がる独特の構造
「YPJ-R」のモーターユニットは車体からつり下がる独特の構造(クリックで拡大)

 ヤマハ発動機と言えばオートバイのメーカーということで、車体のエンジニアもデザイナーもたくさんいますが、彼らがかなり苦労して作ってます。

―― 実際の売れ行きというのはどうなんでしょう。

鹿嶋 もともとそれほど大量に売る計画はないもんですから、初年度の販売目標は1000台となります。ただこの数字は間違いなくクリアできそうかなと。色とサイズによっては現在もバックオーダーも抱えてて、こちらの想定よりはだいぶ上を行ってます。

―― 1000台だと、試乗できるショップもかなり限られてしまいますね。やっぱり乗ってみて決めたいという方は多いと思うのですが。

鹿嶋 展示車なり試乗車なりを常に置いていただいているショップというのは、まだ数百店程度なんです。それでもこの価格で仕入れを起こしてやって頂けるお店がそれだけあるというのは、こちらにとっては非常に有り難いことですね。

 販売店様向けの講習会もやったんですけど、ママチャリタイプとは違うことに対して、ホントにこんなの売れるのかという思いを持って来て頂いたところもあります。逆に価格競争ではないところに競合のないモデルが出たということで、興味を示して頂けるところもあります。

―― 既に2015年末から販売されて、実際に買われた方のフィードバックも戻ってきているころかと思いますが、どういった反応でしょうか。

鹿嶋 本格的な調査は2016年夏からやる予定なんですけど、発売日に買われて相当乗ったという方とお話ししたら、「これまで集団の後ろでヒイヒイいってついて行ってたのが、今は自分が先頭走っていい気分だ」と。

 こんな禁じ手使って恥ずかしいとか、全くそういうところはなくて。仲間の人からは「コイツ汚いんだよ」という会話もあって、それはそれで面白いですね(一同笑)。

 買った方からはおおむね、自転車として基本性能も非常に高いし、アシストで助けられてる感じとか、アシストが切れてまた入ってくる瞬間とかが絶妙に制御されてて、非常に良くできてるという声も聞かれます。作り手の意図を好意的に感じて頂けてるなというのは、非常にうれしいです。



 20年前の電動アシスト自転車開発時には、もっとアグレッシブな意味付けで市場投入したわけだが、狙ったところとは別の場所にピースがはまり、市場が形成されて行ったいきさつは興味深い。まさにニーズの掘り起こしに成功し、育てていった結果今がある、ということであろう。

 今もなお成長を続ける手堅い市場だからこそ、次への種まきをするチャンスだ。クラウドファンディングに目を向ければ、ガレージメーカーが次々に新しいコンセプトの乗り物を登場させている。後付けタイプの電動アシスト自転車と呼べるタイプの製品も多く、ユーザーとしては選択肢が拡がっているのを感じる。

 しかし日本の道路交通法に準拠するとなれば、日本交通管理技術協会の型式認定審査をパスしなければ公道は走れない。きちんと日本のレギュレーションをクリアしたメーカー製のモデルなら、堂々と公道を走れるメリットは限りなく大きい。

 電動アシスト自転車がもう一段階「化ける」とすれば、恐らくここからなのだろう。

(次回に続く)

筆者紹介

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小寺信良(こでら のぶよし)

映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手掛けたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。

Twitterアカウントは@Nob_Kodera

近著:「USTREAMがメディアを変える」(ちくま新書)


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