3Dプリンタによる医療機器製造、米国で進む品質管理とサイバーセキュリティ対策:海外医療技術トレンド(15)(3/3 ページ)
医療機器にも応用されつつある3Dプリンタ。米国では、3Dプリンタと関わる、クオリティコントロールやサイバーセキュリティ対策に関する仕組みづくりも進んでいる。
3Dプリンティングでも不可欠なサイバーセキュリティ規制対応
米国の場合、品質システム規制への対応に加えて、連載第10回および連載第14回で取り上げたサイバーセキュリティ法規制への対応も、3Dプリンタを活用した臨床応用では不可欠だ。
国立標準技術研究所(NIST)は、2015年2月3日、「ダイレクト・デジタル・マニュファクチャリング(DDM)向けのサイバーセキュリティ・シンポジウム」を開催し、3Dプリンタを利用した製造プロセスに関わるサイバーセキュリティの脅威や脆弱性、対策について議論を行っている(関連資料)。
同シンポジウムでは、バージニア工科大学 准教授のクリストファー・B・ウィリアムス氏が、「付加製造におけるサイバーフィジカル脆弱性の分析」と題するプレゼンテーションを行い、付加製造プロセスに関わる3D CADモデル、STLファイル、スライシングソフトウェア、レイヤスライス/ツールパス、3Dプリンタ、3Dオブジェクトについて、セキュリティ脅威/脆弱性の分析結果を報告し、具体的なデモを紹介している(関連資料、PDFファイル)。図3は、ウィリアムス氏が示した、3Dプリンタ技術のクオリティコントロールにおける脆弱性である。品質管理に係る脆弱性として指摘したQCデータの変更、攻撃の結果の隠蔽、攻撃の結果の検知の回避などは、3Dプリンタを応用した医療機器においても想定されるサイバーセキュリティ上のリスクだ。
図3 3Dプリンタ技術のクオリティコントロールにおける脆弱性(クリックで拡大) 出典:NIST「NIST IR 8041:Proceedings of the Cybersecurity for Direct Digital Manufacturing (DDM) Symposium」(2015年4月)
今後、米国で、3Dプリンタで製造する医療機器の届出/承認申請を行う際には、FDAの「医療機器のサイバーセキュリティ管理に関わる承認申請手続の内容に関するガイドライン」(関連情報、PDFファイル)や、NISTの「重要インフラのサイバーセキュリティを向上させるためのフレームワーク1.0版」(関連情報、PDFファイル)に加えて、今回公表されたFDAガイドライン草案や、NISTの3Dプリンタ向けサイバーセキュリティ関連資料も熟読しておく必要がありそうだ。
筆者プロフィール
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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