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中小企業が気を付けるべき「秘密情報の目的外使用禁止義務」とは?いまさら聞けないNDAの結び方(7)(3/5 ページ)

オープンイノベーションやコラボレーションなどが広がる中、中小製造業でも必要になる機会が多いNDAについて解説する本連載。今回が最終回となります。今回も前回に続き、中堅・中小企業がNDAを結ぶに当たり留意すべき点を説明します。

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江戸氏がチェックすべき点

 江戸氏がチェックすべき点は、3点あります。何でしょうか。考えてみましょう。

1.目的外使用禁止義務を定める条項自体が存在するか否か

 1つ目は、「目的外使用禁止義務を定める条項自体が存在するか否か」のチェックです。この点、CFGモーターズから受け取ったNDAのひな型の第3条3項には、目的外使用禁止義務を規定する条項がありますので、江戸氏としては一安心ということになります。

 ここで「目的外使用禁止義務の条項がないNDAなんてあるのか?」と疑問を持った読者の方もいらっしゃると思います。契約当事者が互いに秘密情報を開示し合うという形式のNDAであれば(互いに義務を負うという意味で「双務契約」といいます)、目的外使用禁止義務を定める条項がある場合がほとんどです。

 ところが、筆者の経験上、海外企業が従業員数名の日本の中小企業に提示したNDAの契約書(英文でした)において、この中小企業側にのみ秘密情報を開示させた上で、目的外使用禁止義務を定める条項が存在しないという契約書を見たことがあります。

 これによって何が起きるか分かるでしょうか。こうした契約書だと、海外企業は、日本の中小企業から得た秘密情報を秘密には保持しますが、どのような目的でも使用できる(例えば、自社ノウハウの開発のためにも使用できる)ということが起きてしまうのです。英語に不慣れでNDAの内容を十分に理解できないまま契約してしまうと、「怖い」ことが起きてしまう可能性があるのです。

2.「相手方が(も)」目的外使用禁止義務を負うような規定になっているか

 2つ目は、自社の開示する秘密情報につき「『相手方が(も)』目的外使用禁止義務を負うような規定になっているか」のチェックです。この点を江戸氏がチェックすると、第3条で「甲・・・は、相手方から開示された秘密情報を、本契約の目的の範囲内でのみ用いるものとする。」となっていますので、CFGモーターズ(甲)が目的外使用禁止義務を負うことになっているので問題はないことが確認されました。

 ここでもし、第3条3項が「乙は、相手方から開示された秘密情報を、本契約の目的の範囲内でのみ用いるものとする」と、大江戸モーター(乙)のみが目的外使用禁止義務を負うという内容になっていたら、どうでしょう。もうお分かりですよね。江戸氏は、矢面氏に対し、「乙は」を「甲又は乙は」と修正して欲しいと申し入れる必要があります。

えどけん

ちょっと、ちょっと矢面さん、これだと当社だけが目的外使用をできない状況になっていますよ。ちゃんとCFGモーターズさんも「目的外使用禁止」義務を負うように条項を修正してください!


3.目的外使用禁止義務を負う対象のチェック

 3つ目は、第4条の第2文「この場合甲および乙は、当該役員又は従業員に対して本契約により自己が負う義務と同等の義務を順守させるものとし、かつ、当該役員又は従業員の行為について全責任を負う。」(先述下線部)の内容のチェックです。すなわち目的外使用禁止義務を負う対象のチェックですね。

 第3条3項において目的外使用禁止義務を負うのは、甲(CFGモーターズ)という会社です。他方、実際に情報を取り扱うのは、CFGモーターズの矢面氏や同社の技術者(自然人)で、CFGモーターズという会社自体ではありません。そのためCFGモーターズの従業員などが大江戸モーターから入手した秘密情報を取扱えるようにするために、第4条の第1文「前条の規定にかかわらず、甲および乙は、相手方から開示された秘密情報を、自己の役員又は従業員であって秘密情報を知る必要がある者に限り、その必要な範囲内でのみ開示することができる」が設けられています。

 ここで、第4条の第2文がなかったらどうなるでしょうか。先述した通り、大江戸モーターの秘密情報の開示を受けたCFGモーターズの従業員(自然人)は、CFGモーターズ(会社)とは異なる存在です。そのため、第2文がないと、これら従業員は、大江戸モーターの秘密情報につき秘密保持義務も目的外使用禁止義務も負わないという状態になりかねません。

 そこで、第4条の第2文、特に「甲および乙は、当該役員又は従業員に対して本契約により自己が負う義務と同等の義務を順守させる」という規定を設け、甲又は乙が自己の従業員等を責任もって管理する旨を明文化する必要があります。下線を引いた通り「本契約により自己が負う義務と同等の義務」と規定されていますから、従業員に負わせるべき義務には、秘密保持義務および目的外使用禁止義務の両方が含まれることになります。

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