その改善はトヨタ生産方式の「本質」を外している:鈴村道場(1)(3/6 ページ)
自動車業界のみならず、今やさまざまな製造業で活用されている「トヨタ生産方式」。しかし、今伝えられているトヨタ生産方式の多くは本質を誤解したものーーと指摘するのがエフ・ピー・エム研究所の鈴村尚久氏だ。大野耐一氏とともにトヨタ生産方式を作り上げた父・鈴村喜久男氏の長男であり、自身も長年にわたってトヨタ自動車で生産改善活動に従事。その後100社以上の企業の改善活動を支援してきた鈴村氏。本「道場」ではトヨタ流改革の本質を知る同氏が、日本の製造業が抱えるさまざまな「悩み」と「課題」を斬る。
販売店業務にトヨタ生産方式を適用
他にも販売店業務部の仕事として自動車販売をしている代理店にトヨタ生産方式を適用しました。そこは業績不振が原因の大赤字などで代理店契約を打ち切られる予定になっていました。一度話を聞いて欲しいと先方から言われ出かけていきました。業績不振は深刻で打ち切りまで、2年の期限となっていました。本社の生産調査部は手を出しませんでした。
ここでは多岐に渡り改善を実施しましたが、特に受注についてはまず「ホット壁管理」の改善を実施しました。ホット壁管理とは引き合いから受注までの受注確率別の折衝プロセス管理の手法のことを言います。受注確率をA緑、B黄、C赤、D青(C予備群)に分けて管理を行うやり方を従来も行っておりましたが、やり方に問題があり、正しく機能していませんでした。私は次の手順で改善の徹底を行いました。
1.受注確率ABCD定義の明確化
2.ホット管理板と付せんを用いた営業プロセスの見える化
3.本部の人間が営業所へ出向いて現地現物で進捗状況/管理状況を確認し、改善指導を実施
4.進捗率の見える化、順位による結果評価に対し、客観性を持たせた考え方/評価基準への変更
上記の改善をやっていくうちに営業マンも理解を示し→成果が出始める→営業マンのモチベーション向上→業績がどんどん上がっていきました。なんと受注目標を達成し、万年ビリの会社が対前年伸び率で全国1番の成績を上げたのです。
次に顧客の嗜好に合わせた層別→セールスマンが動けるように仕組み改善、構造改革をしました。顧客は次の2種類のタイプに層別しました。
- とにかく新車に早く乗りたい顧客(圧倒的多数)
- 納期が長くても自分の要求した詳細の仕様通りのものが欲しい顧客(一部の客)
1番目の顧客層が多いため、短期成約を狙い「有り玉販売」を徹底しました。具体的には型式/装備/カラー別にモデル計算書と呼ばれる在庫のある見積書のコピーを用意しました。そうするとレスポンスが早いことと、すぐに乗れることで仕様誘導と顧客の購買意欲が高まり成約率が向上しました。
また売れないセールスは顧客に査定を出した後のクロージングまでのアクションが間延びしているといった傾向がありました。売っている人と売っていない人の違いはレスポンスが違うという傾向があります。2〜3週間の間にいかにホット客(見込み客)に買う気にさせ自分の所に囲い込むことができるかが勝負のポイントなのです。
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