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その改善はトヨタ生産方式の「本質」を外している鈴村道場(1)(2/6 ページ)

自動車業界のみならず、今やさまざまな製造業で活用されている「トヨタ生産方式」。しかし、今伝えられているトヨタ生産方式の多くは本質を誤解したものーーと指摘するのがエフ・ピー・エム研究所の鈴村尚久氏だ。大野耐一氏とともにトヨタ生産方式を作り上げた父・鈴村喜久男氏の長男であり、自身も長年にわたってトヨタ自動車で生産改善活動に従事。その後100社以上の企業の改善活動を支援してきた鈴村氏。本「道場」ではトヨタ流改革の本質を知る同氏が、日本の製造業が抱えるさまざまな「悩み」と「課題」を斬る。

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トヨタ生産方式の自主研究会に対する違和感

 自主研(トヨタ生産方式の自主研究会の略、以下、自主研と表現)は、今は仕入先同士の総合研鑽(さん)が主体ですが、最初は社内から始まりました。製造部、生産管理部、生産技術部の部課長級が集まり、1日で問題点を発見して現場監督者に指摘し、毎週現場と一緒になって改善を続け2カ月後にフォローとして大野耐一氏や父親の鈴村喜久男が直接指導をする方式をとっていました。

 この活動による改善効果が大きいため、社内から次第に仕入先にも展開していきました。そこではストップウオッチなどを使い時間分析による効率改善もやっていましたがそれだけでなく、仕組み改善、構造改革→リードタイム短縮、在庫削減なども行っていました。その時代から既に40年近くたった今も本来その考え方から骨格は変わっていないと感じます。

 私が生産調査部の1年目の時に自主研10年以上のプロに同行し、D自動車の会社の出荷場を見に行きました。現場に行くといろいろな問題点がよく分かります。特に出荷場は顧客と自社をつなぐインタフェースの役割をしています。そこがおかしな動きをしていると問題の要因が良く見えます。ですが、当時の自主研のプロはお決まりの時間分析をしてサイクルタイムを改善し、現場作業者の人をラインから抜くことにしか目を向けませんでした。

 改善手法の理論は充実しているが、適材適所に処方されていなかったのです。時間分析によるサイクルタイムの改善は動作改善→工数改善ですが、一方で仕組み改善は構造改革→リードタイム短縮や在庫削減となります。当時の自主研のプロは動作改善→工数改善のプロがほとんどで、仕組み改善、構造改革のノウハウ者があまりいなかったのです。

 私は出荷場を見て物の動きがスムーズに行われていないことが明らかに問題であり、そこをつぶすことが最優先であると感じました。10年以上の自主研のプロに提案したところ、「鈴村くんそれはいい。ぜひやろう!」となりました。改善指導をした結果効果が出て、D自動車の経営トップからも現場からも評価されました。

 また、ある機械工場の例ですが、たくさんの在庫の品物と欠品している品物があり管理者が困っていました。欠品を解消するには在庫を増やさざるを得なくなり、スペースと金額の問題が発生します。一方在庫削減目標なるものがトップから指示されるため、管理者が板挟みにあっているのが実態でした。

 現地現物で見ていると、工程が長いため、仕掛け始めてから完成するまでの時間が長いことに気付きました。本来は工程改善をするのですが、すぐに改善できません。そこでA→B→A→C→D→Aといった生産のパターン表を作り、品ぞろえをコントロールすることにしました(これを比率制御といいます)。特に自由席の欄を作り、引きが多いものはそこに指示を割り込めるように工夫しました。

 ところがこれで過剰在庫と欠品が改善されると思ったのですが、改善しません。よくよく現場の作業を眺めていると作業者がストアの横に外れたかんばんを箱に投げ入れていました。次に着工指示者が指立て板でパターンに合わせてかんばんを指していく。そしてどういうわけか指示する際に箱の中から同じ品番のかんばんを集めて一度に前工程に指示していました(これを「つまみ食い」といいます)。本来はパターン表に示したかんばんの順番通りに前工程に適宜指示するのですが、本質を理解せず現場で勝手にルールを変更して運用しているために問題を起こしていたのです。

 ここで、正しいかんばん運用の指導をした結果、適正在庫の確保を行い過剰在庫と欠品防止の効果を出すことに成功しました。このように私は仕組み改善、構造改革→リードタイム短縮や在庫削減を中心に行い大きな効果を出していったのです。

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