ワークフローはなるべくシンプルに――「設計者のためのPDM」に求めた5つのこと:3D設計推進者の眼(9)(4/4 ページ)
機械メーカーで3次元CAD運用や公差設計/解析を推進する筆者から見た製造業やメカ設計の現場とは。今回は設計者のためのPDMを構築するにあたり絞り込んだ5つの要件について紹介する。
3.PDMの利用者は、メカ設計者のみにする
PDMでは2D・3D CADデータの管理のみを行うと決めました。メカ設計者の運用を第一優先とすることによって、運用そのものをシンプルにしたいという意図があります。これまでのファイルサーバ上の運用と同じにして、その上で「PDMでの3D CADデータの管理内容」とすることで、CADデータのみを上手く管理したいということを考えました。
メカ設計部門以外へのデータ公開も必要なのですが、“まずは”メカ設計としたわけです。
4.ワークフロー管理は複雑にしない
一般的に、PDMはワークフローといわれる3D CAD設計のためのプロセス管理を行うためのフローチャートの運用機能を持ちます。
ワークフローとは、「個人が設計しているものを共有のPDMに登録するということはどういうことなのか」「PDMに格納されているデータを改訂するということはどういうことなのか」「PDMに格納されているデータを出図するということはどういうことなのか」といった内容を決めるにあたり、“そのデータの状態”や“その状態においてのデータの所有者”、その状態を切り替えるための“変わり目”を決めること、およびその“変わり目を承認するのは誰なのか”といったことを決めることだと私は考えます。
この中で、“変わり目”を承認する人は、一般的にはその設計を行った設計者自身ではなく、第三者が行うように設定するようになっていることが多く、ベンダーからもそう説明を受けます。しかし、私は、理想的には第三者が行うべきではあるものの、自己承認としました。1枚1枚のパーツデータを含め第三者がこの承認を行うことは、現状の設計現場においては出来ないと経験上判断しました。ただし、ライブラリの内容については、自己承認ではなく、第三者の承認を行います。
標準部品や購入品ライブラリのデータが勝手に変更(改訂)されてしまうと、連携した他のデータ(例えばこれらのデータを参照関係に持つようなアセンブリデータ)に対して影響が生じてしまいます。標準部品というものに重きを与えることで、標準部品とは簡単に変更できるものではないという意識付けを行うべきと考え、その取扱いを厳重に行うために、承認フローを持つことにしたのです。
「PDMでの3D CADデータの管理内容」「ワークフロー管理は複雑にしない」で触れているように、版管理やライブラリ管理を行うには、3D CADの構造をどのようにするかということがポイントとなります。
理想的には、「こうやればよかった! メカ設計者のためのPDM」でお話しさせていただいたような構造を考えていくべきだと考えます。私自身が今進めている3D CAD推進において、このPDM立ち上げは、この構造化を行う1つの手段です。
- 基本的な装置モデルから他の種類の装置においても使用されるだろう標準的な加工部品や購入品を抽出して、これを標準部品ライブラリに入れる
- 同種の流用設計されている装置の2D CADデータを3D CADデータ化する作業の中で、共用部品と製番依存部品を抽出し、これを装置というカテゴリの中で反映できる構造とする
といった、とてもシンプルな構造にしようと考えています。
この記事が掲載される頃は、トライ真最中でしょう。大容量の3D CADデータを所有している状況から、データ構造を作りなおそうとする難易度は高いのですが、3D CADデータが少ない現時点だからこそできることと考え、PDM導入を決意したわけなのです。読者の皆さんはどう思うでしょうか?
5.PDM導入立ち上げフェーズでは、生産管理システム連携を行わない
本来は、設計成果物管理を行うPDMから生産管理システムへBOM情報を受け渡すべきであると考えます。それは「4.ワークフロー管理は複雑にしない」でお話ししたように、正式に承認された3D CADデータとBOMはPDMに格納されているので、生産管理システムへはBOM情報をPDMから出すことが最適なわけです。
ただし、この連携を取ろうとするとカスタマイズが必要になり、カスタマイズ要件を決める作業、カスタマイズ開発期間、検証期間が必要となり、PDM導入〜立ち上げが長期化し、導入コストも跳ね上がってしまいます。
私の会社の場合は、2D CADで作成したBOMを生産管理システムへ受け渡す仕組みが構築されていました。また、この受け渡しの作業は出図の際に行われ、その作業も数名の担当者のみによって行われているので、運用上のワークフローが出来ていました。3D CAD導入においてもこれを踏襲する仕組みとカスタマイズが行われました。
ここまでお話ししたように、PDM運用を複雑にしてその稼働時期が遅れることよりも、シンプルにすることでその稼働時期を早くした方が、現場においてはるかに効果を生むだろうと考えて、導入を実践しました。これが第1フェーズでした。
PDMは更に運用範囲を広げることが可能な仕組みです。これは第2フェーズで行う構想を進めています。
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