電気自動車は台湾の新産業に成り得ない? 落胆の「EV台湾」に見た光明:電気自動車(3/3 ページ)
2016年で6回目の開催を迎えた電気自動車関連の技術展示会「EV台湾」。台湾では政府が電気自動車の技術で世界一になろうと意気込んでいるが、電気自動車の普及はなかなか順調に進まない。こうした台湾の電気自動車市場について、筆者のEV台湾リポートを交えてお送りする。
「新たなる期待」をもって
乗用四輪、商用四輪、そしてバイクでも需要が伸び悩む台湾のEV市場。その背景には台湾全体としての経済の伸び悩みが大きく関係している。中国の経済成長が鈍化したことが、東南アジアを含むアジア圏全体の製造業を直撃しているのだ。
そうした中、台湾で2016年5月、新政権が発足する。8年ぶりの政権交代である。国民党の馬英九氏に代わり、総統には民進党の蔡英文氏が就く。これまで進めてきた中国寄りの政治姿勢が今後、どのように変化するのかに国内外の注目が集まっている。そのなかで、EVやEバイクに関しても、台湾政府による新たなる政策が期待される。
その兆候を今回、EV台湾のメインエントランスを入ってすぐにある「台湾オートモーティブ・リサーチ・コンソーシアム(TARC)」の技術展示の中で感じた。
TARCは、日本の産業技術総合研究所(産総研)に相当するITRI(インダストリアル・テクノロジー・リサーチ・インスティテュート)や、国立自動車研究所などが主体となり、次世代車に関して民間企業と連携して研究開発を行っている。
期待される動きは、2つあった。1つは、レンジエクステンダーだ。ITRIと光陽工業(KYMCO Motor)が共同開発したパワートレイン。排気量473ccで2バルブSOHC水冷単気筒のガソリンエンジンに最大出力11kWのジェネレーターを組み合わせた。光陽工業によると、製造開始は2017年の予定だという。
レンジエクステンダーは、プラグインハイブリッド車(PHEV)とEVの中間に属する領域だが、日米欧で量産のめどが立っているパワートレインは少ない。これを日本市場の超小型モビリティ向けとして活用できる可能性があるのではないか。
日本の国土交通省は過去6年間に渡り、全国各地で超小型モビリティの実証試験を行ってきたが、訪問介護などのごく一部の利用シーンを除いて、本格導入に向けた決め手に欠く。そのため、ベンチャー企業の撤退が相次ぎ、また大手自動車メーカーによる量産化計画が立たない状況だ。
そうしたなかで、航続距離が長いレンジエクステンダーという視点で、超小型モビリティに対する新たな期待が持てるように思えるのだ。台湾製の量産のめどが立っているパワートレインがあれば、量産効果による車両価格の低減も期待できるはずだ。
もう1つが、先進運転支援システム(ADAS)関連だ。衝突軽減ブレーキ、車線逸脱防止、車内でのドライバーの表情のモニタリングなど、日本でも開発が進む分野だが、台湾では独自の視点で画像認識技術の研究を進めている。
実証試験では、多彩な施設を有する台中市の車両研究測試中心(ARTC)が使われている。産学官の連携が極めて強く、さらにIT産業が集積する台湾では、ADAS関連機器の開発がさらに大きく進むことが期待できる。
政治と経済の分野で転換期を迎えた台湾。次回の2017年の「EV台湾」では、次世代に向けた多種多様な出展があることを願う。
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