デザインの賛否は分かれても……新型「プリウス」はスーっと加速してキモチイイ:今井優杏のエコカー☆進化論(22)(3/3 ページ)
トヨタ自動車が2015年12月9日に発売した新型「プリウス」を街角で見かける機会が増えてきた。納車を待つ方や、デザインの違和感が気になる人に向けて、筆者の今井優杏氏が新型プリウスの完成度をお伝えする。
エンジンの最大熱効率に萌える
しかし、一番の見どころは実はエンジン。なんと最大熱効率40%!これ、どれだけすごいかというとですよ、あのル・マン24時間レースに参戦していたトヨタ自動車の「TS030ハイブリッド」、あのTHS-RエンジンのE10燃料使用での熱効率が40.3%なわけです。時速300kmを越えるレーシングエンジンに肉薄する熱効率! 萌えましたね、いや、エンジンですから燃えましたというべきか。
この新型プリウスのエンジン、先代の「2ZR-FXEエンジン」を流用しているのですが、従来型の38.5%をはるかに超える熱効率を実現しているのです。具体的には、吸気ポートの形状変更、EGR(Exhaust Gas Recirculation=排気再循環、一度排気ガスとして排出されたガスを再度エンジンに取り組む仕組みのこと)を分配する経路の形状変更、シリンダーボア部の壁温の冷却を最適化することなど、言ってみれば超絶地味な見直し作業の積み重ね。
お、お疲れさまでした。しかしその地味な努力の積み重ねがこの結果を生むんです。なんでも努力はせんといかんのです。その他にも走行に合わせてグリルのシャッターを自動開閉したり(これは燃費を追い求めるプリウスファンが自作していたりもしましたね、量産は難しいと思っていましたがやってくれました)、エンジン冷却水の経路をエンジン本体と排気熱回収器+ヒーターの2系統に分けて最適化を図って暖機性能も向上させています。
磨かれたパワートレインをしっかり受け止めるボディの剛性も、「スーっと加速していってキモチイイ」には欠かせないこと。今回、パワートレインと同じくらい感動した高剛性ボディには、構造はもちろんのこと、骨格部品の接合にもレクサス並みの技術が導入されました。
構造用接着剤を使用するというのがその技術で、この効果がテキメンではあるのですが、構造用の接着剤をプリウスみたいな超大量生産車に使用するのは難しいことだったんです。接着剤だから放っておいたら固まるし、こぼれたら工場が汚れるしで、仕事が増えること甚だしい。しかし、その葛藤を越えて導入することで、なんと剛性は従来比60%アップ!60%ですよ。
きっと乗ったら、「なんか剛性とかよくわんないけどカッチリしてるなぁ」と感じるでしょう。それ、剛性です。剛性のたまものです。そして剛性はもちろん静粛性にも貢献します。リアサスペンションには、高級車やスポーツカーに採用されるダブルウイッシュボーン式を採用しているのも英断。低重心化したボディと相まって、東北道なんかで連続するアールの長いコーナーでブレがなくなり、一回キメた舵角を修正しなくてもよくなりました。
というわけで、全ての変更が「スーっと加速して行ってキモチイイ」ためになされたということ。こうなったらもはや40.8km/lという燃費は後付けにすぎなくて、「楽しく運転してたらオマケで燃費がついてきた」みたいな、ものすごいパラドックスが起こっているのでした。
トヨタ自動車はこの新型プリウスから、「TNGA(Toyota New Global Architecture)」という構造改革をスタートさせました。この中にはもちろん、クルマのみならず、最近モノづくり業界でよく聞かれるモジュール化も含まれてはいるのですが、トヨタ自動車の戦略は単に部品やユニットを共用するモジュール化だけを指さないと言います。
同社社長の豊田氏は、繰り返し「もっといいクルマを作ろう」と、自身のスピーチで訴え続けてきました。その精神こそが「TNGA」の本質だというのです。以下、トヨタ自動車のWebサイトからの引用です。
TNGAではクルマの「走る・曲がる・止まる」に関わる基本部分の競争力を世界トップレベルにまで引き上げたうえで、複数の車種を同時に企画するグルーピング開発などにより、部品やユニットを賢く共用化します。
自身でニュルブルクリンクまで走ってしまう「超クルマ好き」豊田氏の、いよいよ本気のクルマづくりがここに始まったと、考えてもいいのではないでしょうか。
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