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画像認識のデファクト企業「Mobileye」は自動運転時代の主役となるか自動運転技術(4/4 ページ)

単眼カメラを用いる先進運転支援システム(ADAS)向けのSoC(System on Chip)やアルゴリズムの設計開発を手掛けるMobileye(モービルアイ)。これまで脇役に徹してきた同社に対する注目が一気に高まっている。Mobileyeはどういった企業で、今後どのような事業展開を目指そうとしているのか。同社に詳しい桃田健史氏が解説する。

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さらに加速するMobileyeの事業戦略

 表舞台に登場したMobileyeは今後、事業を急激に拡大する計画だ。

 SoCによる半導体の量産化のスケジュールでは、Eye Q3を3基使う「Trifocalシステム」を2016年後半〜2017年初に欧州自動車メーカー向けに始める。そして第4世代の「Eye Q4」を2017年後半〜018年初に量産開始するという。

単眼カメラ(左)と「Eye Q3」(中央)、Eye Q3を基に開発したSoC(右)
単眼カメラ(左)と「Eye Q3」(中央)、Eye Q3を基に開発したSoC(右)

 こうした半導体の導入をに受けてハードウェアとしての単眼カメラの精度も高めていく。

 画像認識が可能な前方の角度範囲では、2018年に50度、2019年に75度、その先ではできるだけ早い段階で100度を目指す。また、画素数については、2019年に1.3Mピクセル、2020年には1.7Mピクセル、その先ではできるだけ早い段階に7.2Mピクセルを実現したいと説明した。

 またEye Q3を3基用いつつ、前方を見る3個の単眼カメラ、車両の側面と後部に装着した5個のカメラにより、自車の周囲360度で高精度な画像認識を行うトータルパッケージのシステムを2017年内に量産することも明らかにした。

 自動車産業界にとって大きなインパクトとなるのが、GMと進める「Road Experience Management(REM)」だ。これは、単眼カメラで収集した画像データを、GMの車載機システム「On Star」を介して各車両からクラウドに上げてプローブデータとして解析するもの。クラウド経由で各車両にフィードバックされるのは、単眼カメラでは認識できない数百m〜数km先の道路状況に関する通知サービスや、自動車保険に対する運転評価、さらには自動運転における車車間/路車間通信など、さまざまな「ビッグデータ解析ビジネス」となる。

 Mobileyeのシステムの特徴は、こうしたプローブデータ化のため各車両から提供する画像データが“軽い”ことだ。現在考慮されているデータ量は1km当たり10kバイト程度であり、これはフォルクスワーゲン傘下のアウディ、BMW、ダイムラーのジャーマン3が2015年に買収した地図情報メーカーHere(ヒア)のHD(高精度)マップのデータ量に比べて極めて“軽い”。

 自動車メーカーの自動運転の開発技術者と意見交換すると、「詳細でリアルタイム性の高い、自車周辺の状況を把握するデータは、自動運転にとって必然だ。しかし、重いデータを各車両からクラウドに一気に上げることは、現実的な発想とは思えない」という声が多い。

 そうした中、GMがMobileyeと技術提携した今回のシステムは「とても現実的な考え」だと思う。データ量が軽く、さらにOn Starという既存のハードウェアと車載機システムのインフラを使うからだ。

 Mobileyeの今後の技術戦略について、共同経営者のシャシャウ氏は、「単眼カメラによる技術革新に加えて、ストロングAIと一般的に呼ばれている高度な人工知能の領域での研究開発を加速させる」と意気込みを語った。

 従来型の自動車産業構造では、ティア2サプライヤであるはずのMobileye。だが、コネクテッドカー、自動運転、ビッグデータ解析といった、クルマのIoT革命によって、自動車メーカーと対等の立場で次世代自動車を協議できるステークホルダーに変ぼうしたといえる。

筆者プロフィール

桃田 健史(ももた けんじ)

自動車産業ジャーナリスト。1962年東京生まれ。欧米先進国、新興国など世界各地で取材活動を行う。日経BP社、ダイヤモンド社などで自動車産業、自動車技術についての連載記事、自動車関連媒体で各種連載記事を執筆。またインディカーなどのレース参戦経験を基に日本テレビなどで自動車レース番組の解説も行う。近刊は「IoTで激変するクルマの未来」


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