ルノーの新デザインコンセプト『サイクル・オブ・ライフ』はなぜ生まれたのか:クルマから見るデザインの真価(8)(4/5 ページ)
フランスの自動車メーカーであるルノーは、新たなデザインコンセプト『サイクル・オブ・ライフ』のもとでクルマづくりを進めている。1990年代以降、変化してきたフランス車の『らしさ』や、日本市場でのルノー車の受け入れられ方とともに、ルノーが『サイクル・オブ・ライフ』でどのように変わろうとしているのかを読み解く。
日本市場におけるルノーのイメージ
日本の輸入車市場におけるルノーのイメージはどうだろうか。ルノー・ジャポンが2000年にできるまでは、インポーターが何度も変わるといったこともあり、それまでのルノーはマニア層が買うブランドに近かった。
ルノー・ジャポン発足以降、だいぶ街中での存在感も増してきたとはいえ、日本におけるルノーのイメージをけん引してきたのは「カングー」と「ルノー・スポール(R.S.)」の2本柱であったように感じていた。このあたりを佐藤氏に伺うとやはりそのようで、「これら2本柱でブランドとしてのキャラクターを打ち出し、ファン顧客を育成していくことがここまでディーラー網を構築する上でも重要な要素だった」という。
特にカングーについては、佐藤氏も正規導入前に「果たして日本での商材としてどうなのか」という思いがあったという。ところが調べてみると、並行輸入されているカングーが思いの外コンスタントに売れている。「ほぼ商用車に近いクルマなのになぜ」(佐藤氏)と思いつつも購買層を見れば、いわゆるクルマ好きとは異なりライフスタイルにこだわりを持つ人の中に、実用性がありながら、日頃街中で見る商用バンとは異なる雰囲気を持つカングーに引かれて買って行くという状況が見えた。
それならばと、ルノー・ジャポンがカングーの正規導入を始めると、売り込みをしなくてもやはりコンスタントに売れていく。爆発的な数でなくとも順調に世の中に送り出されたこともあり、モデルチェンジを経た現行のカングーでは、ごく普通のファミリーが「国産のミニバンもいいけどカングーも気になるよね」とディーラーを訪れるまでになっているという。
もう1つの柱となったルノー・スポールも安定的に顧客が育っているという。スポーツ系のモデルはキャラクターがはっきりするほどに、値引きうんぬんよりも顧客の指向と予算が合うかという面が大きい。
安定的に2つの柱が育ったことでビジネスの基礎ができたとはいえ、見方を変えると他のモデルでは苦戦しているともいえる。インポーターとしては他のモデルも売れなければ困る。それなりの台数を安定的に売ることを本国サイドからは求められであろうし、そうでなければ安定的にクルマが供給されないということにもなりかねない。
日本市場向け車両の生産方法を伺ったところ、ルノー全体の生産台数の中で占める割合があまりにも少ないのでロット生産になっているという。つまり、ある時期に固めて生産されるわけで、人気が集中するモデルが発生すると、数を売る市場向けの生産が優先され、日本市場向けを生産する“ある時期”がどんどん後ろにずれるということも起き得る。
JAIA(日本自動車輸入組合)の統計情報によると、2015年度上半期(2015年4〜9月)の販売台数ランキングではルノーは14位である(トヨタ自動車や日産自動車など国内ブランドを除くと12位)。台数にして2290台で、日本市場撤退を発表したFord Motor(フォード)の2432台や、高級車を扱うPorsche(ポルシェ)の3426台より少ない。日本の輸入車市場でのシェアは1.46%となる。
インポーターであるルノー・ジャポンでマーケティングを担当する佐藤氏にとって、『サイクル・オブ・ライフ』というデザインコンセプトが掲げられたことは、今後ビジネスを拡大していく中でのツールができたと感じている。ユーザーに最も近い販売現場の人でも理解しやすくデザインを語れるツールができたというわけだ。
ヴァン・デン・アッカー氏には、クルマだけでなくブランドトータルでデザインを見るという役割が課されているという。このことから、『サイクル・オブ・ライフ』というコンセプトが設定される中では、デザイナー同士、あるいは開発に関わる人の共通認識のためのデザインコンセプトを作るのではなく、販売の現場でも活用できるような分かりやすい内容でコンセプトを表現するということも視野に入れられていたと想像できる。
今回ルノー・ジャポンで話を伺う前に「ルーテシアR.S.」の広報車を借り出し、1日掛けて試乗した。『サイクル・オブ・ライフ』でのLOVEというテーマを知った上で、このクルマを眺めてみると確かにテーマに沿った表現がされ、競合車とも差別化がされていることを感じる。
競合車より車高が低く、サイズの割に量感のある曲線で構成されたボディは、小さい中で室内空間はできるだけ大きく、といった実用的な小型車の印象は薄くスポーティーで情緒的だ。スポーティーさに一役買っているリアフェンダーの張り出しは、その分リアシートの空間を多少なりとも削っている。前後のシートに乗り比べてみると、このクルマは人と人が出会い恋に落ちるLOVEというコンセプト通り、前席の2人が主役であり、大人4人がどの席でも快適に過ごせる空間の提供を目指していないことがよく分かる。
もっとも個人的には、運転を始めて1つ、2つ角を曲がると、そのまま遠くまでドライブしたくなる点は、以前に自分で所有していたプジョーの「306」や「406クーペ」と共通する雰囲気を感じ、乗り味がドイツ車に近づいた印象があるとはいえ、やはりフランス車だなぁと感じたりもした。
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