4K/8Kの映像配信を普及させる符号化技術「HEVC」とは:5分でわかる最新キーワード解説
H.264/AVCのデータ圧縮率を2倍に引き上げ、8Kなど超高精細映像やモバイル環境でのスムーズな視聴を実現する映像符号化方式の新規格「HEVC」について解説します。
今回のテーマは超高精細映像配信やモバイル環境でのスムーズで美しい動画視聴の両方を実現すると期待される、映像符号化方式の新規格「HEVC」。H.264/AVCのデータ圧縮率を2倍にできるというこの規格は、映像処理の新常識。今回はそのあらましを紹介していきます。
HEVCとは
HEVCとは、現在モバイルからハイビジョン映像配信に利用されているH.264/AVCの次の世代の映像サービスを担う新しい映像符号化技術。2013年1月に第1版の標準化が完了した。H.264/AVCの2倍の圧縮性能を実現することで、モバイル環境での視聴環境の改善や、スーパーハイビジョン映像利用も担える4K/8Kの映像配信を普及させる原動力ともなる新規格だ(規格名称については「関連するキーワード」の項参照)。パケットの上限で通信速度制限がかかってしまう今の時代、動画再生のためのパケット量を大幅に減らしてくれるこの技術は、多くの人にメリットをもたらしてくれるだろう。
映像利用はHEVCでどう変わるのか?
HEVCの最大の特徴は高い圧縮率にある。圧縮率が高ければ高いほど、少ないデータ量で高精細な、高フレームレート映像を配信できる。高精細映像サービスにはできるだけ高い圧縮性能が望ましい。従来と同じような映像品質を得るのに半分のデータ量で済むのは大きな前進といえる。
また、これまでよりも大きな画面で高精細な4Kや8Kの映像を実現するUHDTV(Ultra High Definition Television:超高精細テレビ)などの普及のためにもデータ圧縮率の改善は不可欠な要素だ。加えて、ネットワーク帯域が限られるモバイルでの無線通信を用いた動画配信でも、従来よりもスムーズで鮮明な映像提供を可能にするのも大きなメリットだ。
これと表裏の関係にあるのが演算量。映像表示端末は、家庭や施設内に設置される消費電力にあまり神経質にならなくてもよい端末では、処理能力の高いプロセッサなどを利用して高解像度や高フレームレートの映像表示が可能だが、問題なのはモバイル端末だ。プロセッサ性能などは今後向上していくとしても、限られた筐体内のスペースに収まるバッテリーの容量が飛躍的に向上することは当面見込めない。
消費電力を抑えつつ、停止することなくきれいな映像を表示するためには映像処理の演算量をできるだけ少なくする必要がある。HEVCは高い圧縮率を実現しつつ演算量の増加を抑制するように設計された規格であるため、高精細な動画をモバイル端末上でも十分な品質で視聴可能になっている。
従来方式とどこが違うのか
図1に示すのは、HEVCの ビットレート削減率の検証結果だ。基準としているのは、Blu-ray Discやワンセグ放送、デジタルカメラやスマートフォンの録画などに利用されているH.264/AVC規格。同程度の品質の映像を得るのに必要なデータ量を比較したのがこのグラフだ。
映像品質は工学的に測定された数値(客観評価)のみでは評価が難しく、人間の目による評価(主観評価)による検証も行われた。これによると4K映像でも主観評価で64%、客観評価では49%のビットレート削減を行っても同レベルの映像品質が得られることが実証されている。全ての解像度において、主観評価では52~64%という大幅なビットレート低減が可能なことが分かる。
詳細にH.264/AVCとHEVCの違いをまとめたのが下の表だ。従来技術との違いはあるものの、全く異なる異質なものではなく、H.264/AVCの特徴を受け継ぎながら、さまざまな面でさらに拡張・改善を施したものと理解しておくとよいだろう。
符号化ツール | H.264/AVC | H.265/HEVC |
---|---|---|
画面内予測 | 4×4ブロック:9モード、8×8ブロック:9モード、16×16ブロック、4モード | 4×4〜64×64のブロックサイズについて35モード |
画面内予測(動き予測) | 4×4〜16×16ブロック 1/4画素精度探索 | 8×4/4×8〜64×64ブロック 1/4画素精度探索 |
直交変換 | 4×4もしくは8×8 整数精度DCT | 4×4〜32×32 整数精度DCT |
可変長符号化 | コンテクスト対応可変長符号化、コンテクスト対応算術符号化 | コンテクスト対応算術符号化 |
ループ内フィルター | デブロッキングフィルター | デブロッキングフィルター、適応画素オフセット |
技術進歩のポイントは?
従来技術からの進歩は、主に次のような3つのポイントにまとめられる。
- (1)画像のブロック分割のサイズを従来より大きくでき、効率的な圧縮が可能になった。
- (2)映像内の絵柄の変化をきめ細かく予測して符号化することで効率を向上した。
- (3)復号画像につきもののブロック歪除去処理に加え、ボケ抑制の画素適応フィルターを導入した。
図2は、HEVCで映像を符号化するときの流れを示したもので、丸数字の箇所に上記の技術ポイントが生かされている。以下に少し詳しく説明しよう。
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