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日本の自動運転車開発の課題は「自動車業界とIT業界の連携不足」富士通テン会長 重松崇氏 自動運転技術講演全再録(5/5 ページ)

「第3回 自動車機能安全カンファレンス」の基調講演に富士通テン会長の重松崇氏が登壇。重松氏は、トヨタ自動車でカーエレクトロニクスやIT担当の常務役員を務めた後、富士通テンの社長に就任したことで知られる。同氏はその経験を基に「自動運転技術の開発を加速する上で、日本は自動車とITの連携が足りない」と課題を指摘した。

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IT業界が自動運転に関心を持つ理由

 重松氏はレベル5に相当する完全自動運転について、自動車業界とIT業界でそれぞれ目指す背景が異なると説明する。自動車業界は予防安全技術の進化に沿ってレベル5を目指しており、このシナリオの大儀である“車の安全性向上”は変えていない。

 一方のIT業界は社会の効率を良くするパーツの1つがクルマだと考えている。「IoT(Internet of Things、モノのインターネット)のライフスタイルに自動車を組み込み、個々人に簡単で自由な移動を提供することで社会活動を活発化し、さらに、その活動データを基にした新たなサービスを創出するビジネスモデル」である(同氏)。

完全自動運転を目指す背景は自動車業界とIT業界で異なっている
完全自動運転を目指す背景は自動車業界とIT業界で異なっている (クリックして拡大) 出典:富士通テン

 1つの試算としてオンデマンドの完全自動運転、つまり必要な時に自動運転車を呼んで、移動先では自動運転車から降りるだけで済むようになれば、クルマを所有して手動で運転するのと比較して距離当たりの移動コストは3分の1に減少するという。自動運転によって交通事故の削減も期待でき、電車での移動のように自動運転中のセカンドタスクが利益を生むことも考えられる。これに対して、米国のある大学の予測によれば、完全自動運転が普及すると新車販売は4割減になるという影響も想定されている。完全自動運転によるクルマの使い方の変化が自動車業界にインパクトを与えることは確かそうだ。

完全自動運転は自動車での移動コストを減らし、社会の効率を高める
完全自動運転は自動車での移動コストを減らし、社会の効率を高める (クリックして拡大) 出典:富士通テン

 一方、ユーザーニーズはどうか。経済産業省が2015年に日本、米国、ドイツで実施した自動運転に対するニーズの調査では、完全自動運転や自動駐車に対して75%の回答者が肯定的な意見を示した。ドライバーが急病などで運転不能になった時に自動運転で退避して緊急通報するデッドマンシステムについては、9割以上が「是非つけたい」「つけるかもしれない」と回答した。「日本で自動運転に対する支持率が高いのは、高齢化に加えてクルマの運転にこだわらない層がいる影響もあるだろう」と重松氏は分析した。

日本は欧米と比較して自動運転に対する支持率が高い完全自動運転が普及すると社会のさまざまな側面に影響が及ぶ 日本は欧米と比較して自動運転に対する支持率が高い(左)。完全自動運転が普及すると社会のさまざまな側面に影響が及ぶ(右) (クリックして拡大) 出典:富士通テン

日本の自動車業界とIT業界の連携について

 重松氏は「(自動運転へのニーズが大きくなりつつある今)日本の強みである安全で高品質なモノづくりへのこだわりが、目に見えないソフトやサービスへの取組の遅れにつながっていないか」との懸念をしめした。「自動車業界からICT関連会社に移った経験から、全く違う文化の業種同士が手をとりあう難しさを感じた」と振り返る。自動車業界の成長の機会がどこにあるかを日本の経営者に問うたアンケート調査によると、実に8割が他業種との連携と回答した。「経営トップが連携の必要性に実感を持っているにもかかわらず、それを上手く実践できない企業風土の姿勢を、自社の現場から見直さなければならないと自戒している」(同氏)と強調する。

 また、日本でも議論を重ねるだけでなく、目的や使用範囲を限定しながらでも完全自動運転を活用したサービスの早期実現を目指すべきとも述べた。

市場投入前に不具合をつぶしきれるか

 最後に重松氏は、車車間通信とソフトウェア更新による信頼性向上を提案した。

自動運転の信頼性向上には、ドライバーのアイコンタクトに代わる車車間通信とソフトウェア配信の仕組みの整備が必要になる
自動運転の信頼性向上には、ドライバーのアイコンタクトに代わる車車間通信とソフトウェア配信の仕組みの整備が必要になる (クリックして拡大) 出典:富士通テン

 車車間の高速通信は、ドライバー同士のアイコンタクトに代わる機能として自動運転に必要になるという。「人間は、道路だけを見ながら運転しているのではなく、周囲のクルマやドライバーを見てその動きから他のドライバーの意思を推測する。高速道路の合流時に入っていけるかを推測するためのコミュニケーションを車車間通信でやれるのではないか」(同氏)。

 また、政府が主導して自動車専用の通信ネットワークを構築する必要もあると指摘した。サイバー攻撃への対策として、自動車の通信手段をインターネットだけにとどめるべきではないという考え方に基づくものだ。

 もう1つの提案は、自動運転システムを更新するソフトウェアを配信する仕組みの整備だ。例えば電気自動車ベンチャーのTesla Motors(テスラ)は、「モデルS」の制御システムのソフトウェアを頻繁にOver-The-Air(OTA:無線ネットワーク経由)でアップデートしている。重松氏は「実車が実際に走って起こった不具合を検証し、フィードバックするサイクルがなければ品質向上には限界がある。難しい部分もあるかもしれないが、ぜひ取り組むべきだ」と指摘した。

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