日本の製造業が「IoTで遅れている」と指摘される理由:MONOist インダストリー4.0セミナー レポート(2/3 ページ)
MONOist主催のセミナー「インダストリー4.0の到来は日本をどう変革するか」の基調講演に、経済産業省 の正田聡氏が登壇。日本政府としてIoTによる製造業革新を支援する取り組みをどう進めているかということを紹介した。インダストリアルインターネットコンソーシアムの日本の窓口として活躍する吉野晃生氏の講演なども含め、同セミナーのレポートをお送りする。
日本企業の参加はまだまだ少ない
続いて、IICの吉野氏の講演をお伝えする。IICとは、米国のAT&T、シスコ、GE、インテル、IBMの5社が設立したIoTの産業実装を目的とした団体である。設立は2014年3月で、実はドイツ連邦政府が主導するICTを活用したモノづくり革新プロジェクトである「インダストリー4.0」の活動活性化が大きな影響を与えたという。原則的にドイツ法人であることが参加の前提となっているインダストリー4.0とは異なり、IICは基本的にはオープンな団体活動であるため、多くの企業が参加しており、現在は200社以上が参加している。
日本からは、日立製作所、東芝、三菱電機、富士電機、富士通、NEC、富士フイルム、トヨタ自動車(米国法人)などが参加。インダストリー4.0の中核企業であるSAPやシーメンス、ロバート・ボッシュ、KUKAなども参加しており、さまざまな国際連携の場として活用が進んでいる。吉野氏は「海外の他の地域と比べて日本企業は大手ばかりで中小・ベンチャー企業の参加がないのが課題だ。新しいイノベーションのほとんどは中小・ベンチャー企業から生まれる。これらの企業の参加を呼び込んでいきたい」と話す。
IICはインダストリー4.0とスマートファクトリーなどの領域では同じだが、対象とする範囲が異なることが特徴だ。IICがカバーする範囲はインダストリー4.0よりも広く、幅広い産業を視野に含む他、IoTによる新たなビジネス創出なども活動の中心の1つとなっている。
カギを握る「アーキテクチャ」と「テストベッド」
IICが重視している取り組みとして特徴的なのが「アーキテクチャモデル」と「テストベッド」である。アーキテクチャモデルとは、スマートファクトリーやIoTによるビジネスモデルを模式化したものだ。IoTによる新たなビジネスモデルや社会モデルは既存の技術などを積み上げていっても表すことができない。アーキテクチャとしてモデル化し、そこに必要なものを開発・調整していく形だ。このアーキテクチャモデルについては、インダストリー4.0でも採用されており「RAMI4.0」として2015年5月に公表されている。
「こうしたアーキテクチャとしての考え方は日本ではあまりなじまないかもしれないが、IICもこのアーキテクチャをベースに、インダストリー4.0と共通部分をすり合わせる活動を既に進めている。欧米の企業の特徴は10年、20年先のビジョンを持って取り組みを進められる点だ。インダストリー4.0もIICもIoTに関する変化は将来の姿をイメージして活動を進めている」と吉野氏は語る。
一方「テストベッド」は実証試験のことである。IICでは実証試験の場をより多く作り、現実的なIoTの社会実装の仕組みを作り出すことを重視している。現在は既に11のテストベッドが承認されており、さらに4件が承認待ちの状況になっているという。「重要なことは、こうしたテストベッドの活動についても、1社で行うのではなく、複数社が行うケースが多いという点だ。日本企業は苦手な部分かもしれないが、これらの取り組みは1社ではできない。前提条件としてオープン・クローズ戦略をどうマネジメントしていくのか、や企業連携のプロセスを用意できているのか、という点などは求められる。IoTで成功するためには、企業間連携の仕組みを社内に持っていなければならない」と吉野氏は強調する。
今後に向けては、2016年6月に日本でIICのカンファレンスを行う計画などを発表。また、IICの活動ではないが、吉野氏が務める日本OMG代表理事としての立場で、直接的にIIC活動への支援を行う「Industrial Internet Institute」を設立することなどを説明した。
吉野氏は「日本は現状では遅れていると見える面もあるが、インダストリー4.0の動きについても日本企業は間違いなくキャッチアップできる。2016年は具体的にプロジェクトを動かす1年としてほしい」と日系製造業へのエールを送った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.