なぜ日本ではバーチャルなモノづくりが受け入れられないのか?:日本機械学会 設計工学・システム部門の講習会より(4/4 ページ)
欧州ではモノづくりの現場でCAEを活用したバーチャルエンジニアリングが当たり前になりつつある。自動車の認証試験に「バーチャルテスト」を取り入れる動きも進んでいる。一方、日本ではバーチャルエンジニアリングの価値がなかなか理解されていないようだ。
3Dの価値を過小評価していないか
会場からは、左工程での積極的な活用が進まないのは、役割も評価も縦割りで、知見はそれぞれに分断されてしまい、横のつながりがないことが一番の原因ではないかという意見が聞かれた。内田氏は、「日本のよいところはすり合わせ技術だと言われた。それは、“1台の車によってたかって良い車にしようとする”という意味でのすり合わせだった。現在は個々の部品レベルでのすり合わせが非常に多く、製品をシステム全体として見られなくなっている」という。今後、製品がシンプルになっていくのかというとそうではない。つまり今の状況では、日本の競争力はより下がっていくのではないかと内田氏は述べた。「なおかつ、左側の道具(としてCAEを使う環境を整える)動きが今、非常に遅い。既に海外は国レベルで動いている。国家戦略の中に入れないといけないレベルの話ではないか」(内田氏)。
にもかかわらず大学ですら「2次元によってこそ設計の仕方が分かる。3次元設計は教えない」という教員は意外と多いと指摘した。一方、西海岸の大学ではもはや2次元設計を教えていないから、学生は2次元図面読めないという話もあるそうだ。それらがいいか悪いかは別にしても、3次元の価値の高さに気付かないままではよくないという認識を示した。
意識変革の難しさはどこにある?
「日本では、CAEの総責任者は誰かと問えば、CAEのオペレータのトップと答えるのではないか。ヨーロッパもアメリカも、CAEの総責任者は「開発の総責任者」だ。日本では開発の総責任者がデジタル(関連)の動きを分かっていないから、いくら訴えても理解されにくい」と内田氏は指摘する。
そうなった背景を内田氏は以下のように分析した。内田氏の考えでは、デジタルの開発設計において実現できることは3つあるという。それは創造性、効率化、品質向上だ。だがCAEを日本に導入した時、効率化だけが旗印となった。なぜかというと、当時のCAE技術は創造性を発揮する土台になるほど高くなかったからだ。品質については、海外にとっては「日本並みの品質になる」のが売り文句だったため、日本で訴える理由がなかった。そして本当はモノづくりの現場である開発部門にCAEを売り込むべきだったが、IT部門に向かって、これを使うとコストダウンに役立つと訴えた。
2000年を越えたところで、CAEとCAD、CAMが全てつながった時に、バーチャル環境上でも創造的なモノづくりが行えるようになってきた。そこから改めて、CAEは有用だという説得が始まっている。つまり進んでいる国より20年、考え方が遅れていると指摘した。
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