逆境の中、力強く生きる岩手! 製造業の活路を開く:メイドイン東北の力(1/2 ページ)
本稿では、主に岩手県内陸部における製造業を中心とした産業事情や震災復興事業について紹介する。
2011年3月の東日本大震災で深刻な被害を受けた岩手県。徐々に復興の兆しは見せつつあるものの、いまだに震災前の状態とはほど遠い状態だ。復興に歩みを進めていくには、津波の被害を受けなかった内陸部での産業振興が重要な役割を果たす。本稿では、主に岩手県内陸部における製造業を中心とした産業事情や震災復興事業について紹介する。
3次元技術で新しいキャリア創出を
岩手県内陸部は、盛岡、花巻、北上、奥州、一関といった北上川を軸とした地域に、自動車、半導体、医療など工業系企業が集中する。一方、岩手県沿岸部の産業は漁業や食品関係が比較的多く、工業系は少ない。
「大津波が来ようとも、また海のそばに住みたいと願う人は結構いる」と話すのは、2010年12月から現在まで「いわてデジタルエンジニア育成センター」(以下、DEセンター)のセンター長を務める黒瀬左千夫氏だ。岩手県と北上市が地域産業活性化事業として取り組むDEセンターは、岩手県内の製造業の競争力強化を目指し、CADやCAEなど3次元技術を駆使する技術者を育成する施設であり、求職者や教育機関、企業に対し教育支援やITツールのサポートなどを格安で提供している。
同センターでは、沿岸被災地域復興計画の3次元化に取り組んでいる。地元住人に対し、津波のリスクに配慮した街並みや避難経路を3次元CGやシミュレーションで分かりやすく説明するための取り組みだ。図や言葉で説明するよりも分かりやすく直感的に計画の内容を伝え、安心してもらうことが可能だ。
DEセンターは、IT人材開発を事業とする岩手沿岸部の大槌町が拠点のKAI OTSUCHIや、CADベンダーのオートデスクとともに、従来とは違う新たな事業創出に取り組む。他県から3次元CGの仕事を集め、大槌町に在住する技術者に仕事を依頼するというルートを開拓しているという。
黒瀬氏は、かつて東北リコーで3次元CAD推進の旗振りを務めた人物だ。3次元データ活用による効果や恩恵を体感してきた経験からも、製造業活性のためには「とにもかくにも3次元技術活用」と考えてきた。黒瀬氏は、CADだけではなく、CAE(解析)やラピッドプロトタイプ、DMU、CAT(計測)やリバースエンジニアリング、CAMといった、モノづくり一連に関わる実務的な3次元技術を習得できる教育体制を作り上げてきた。
同センターには、さまざまな3次元CADやCAE、3Dプリンタ、3Dスキャナーなど最新機器を備え、教育プログラムの受講者には無料で利用できるよう開放している。サポート実務に携わるスタッフたちは、3次元データ関連の技術を幅広く身に付けており、DEセンターを訪れる人たちのレクチャーに当たっている。
DEセンターの卒業生たちは、岩手県内の企業で着々と実績を作っている。求職者の中には工業高校や大学を出ていない人、業界未経験の人もよくいるが、同センターの教育を経て、CADやCAEを駆使できる設計技術者にきちんと育っていくと黒瀬氏は言う。例えば、製造業未経験の沿岸部の求職者が望めば、3次元技術の実務を学ぶこともできるし、製造業への就職がかなう可能性もあるとのことだ。
岩手県と他地域と共栄したい
登内芳也氏は2011年の震災発生直後から、本業である流通業の傍らで東北の復興支援に取り組んできた。同氏が群馬県の下請町工場集団「下請の底力」(現在、組織は解散)の仲間と2011年3月に結成した「チームともだち」は2014年3月で3年目となり、「支援」から「共生」にテーマをシフト。「下請の底力」のメンバーは“卒業”し、東北在住の人中心で新メンバーを再構成した。
登内氏は2013年4月から、埼玉県に家族を残して北上市に単身赴任し、北上市役所の復興支援員を務めている。同氏は今、「ふるさと納税」を活用することによる東北の産業活性を計画する。この計画では、「作り手」(生産者)、「売り手(販売者や流通者)、「買い手」(消費者や購買者)、「弱者」(被災者や地域弱者)が満足いく「四方良し」の体制を唱えている。税を納めるのは「作り手」「売り手」「買い手」となり、税で援護するのが「弱者」ということになる。その体制を実現するためには、ふるさと納税が“定期的に”集まる仕組み作りが必要となる。
北上市役所内では、県外の人たちから定期的に納税してもらえるような魅力的な特典企画を考える会議を何回か開き、幾つか出たアイデアの実現に向けて日々動いているという。楽しいアイデア会議は、職員たちのモチベーションアップにもなっているそうだ。
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