大手との協業、NDAを結ぶ前に「目的の明確化」が必要な理由:いまさら聞けないNDAの結び方(4)(3/5 ページ)
オープンイノベーションやコラボレーションなどが広がる中、中小製造業でも必要になる機会が多いNDAについて解説する本連載。今回からNDAを結ぶに当たり注意すべき点を説明します。
NDAを結ぶ目的を明確化しなければならない理由
では、なぜ、NDAを結ぶ目的を明確に認識する必要があるのでしょうか。理由は2つあります。
1つ目の理由「大江戸モーターの秘密情報を自由に使わせない」
1つ目の理由は、相手方による自社の秘密情報の使用を必要最小限の範囲に制限するためです。
NDAの契約書には、秘密情報の開示を受けた契約当事者は、NDAを結ぶ目的の範囲内でのみ開示を受けた秘密情報を使用し、他の目的のために使用してはならないという条項(目的外使用禁止条項)が設けられるのが通常です。この条項により、大江戸モーターからモーターの小型化に関する秘密情報の開示を受けたCFGモーターズは、NDAを結ぶ目的の範囲内でしかこの秘密情報を用いることができないことになります。江戸氏は、この目的外使用禁止条項との関係で、NDAを結ぶ目的を明確に認識し、これをNDAの契約書に明示する必要があります。
例えば、送られてきたNDAの契約書のひな型に書かれた「NDAを結ぶ目的」の記載が以下の2つの例の場合、何が異なるでしょうか。
- 「次世代電気自動車用小型モーターの開発の検討」と記載されている場合
- 「次世代電気自動車用小型モーターの開発を共同で実施することが実現可能か否かの検討」と記載されている場合
先ほど、江戸氏は目的を明確化しなければならないということを紹介しました。
NDAを結ぶ目的は「CFGモーターズに当社の技術を開示し、必要に応じてCFGモーターズからも同社の技術を開示してもらって、協業できるかどうかを決定する」ことだ!
と、あらためて確認しましたね。ですから、この目的に沿う表現は2番目の「次世代電気自動車用小型モーターの開発を共同で実施することが実現可能か否かの検討」になるはずです。しかし、CFGモーターズ(矢面氏)が送ってきたNDAのひな型にNDAを結ぶ目的として1番目の「次世代電気自動車用小型モーターの開発の検討」が記載されていた場合には、NDAにサインした後に、大江戸モーターにはどのような事態が降りかかるのでしょうか……。
先ほど説明したように、NDAを結んだ場合、目的外使用禁止条項により、契約の一方当事者から秘密情報を受領した相手方は、この秘密情報を、NDAを結んだ目的の範囲内でしか使用できません。従って、「次世代電気自動車用小型モーターの開発を共同で実施することが実現可能か否かの検討」のような記載であれば、CFGモーターズは、大江戸モーターから開示された新型小型モーターに関する秘密情報を、大江戸モーターとの共同開発の実現が可能であるかの「検討」のためにしか使用できません。
しかし、「次世代電気自動車用小型モーターの開発の検討」と記載されている場合は、CFGモーターズは「次世代電気自動車用小型モーターの開発の検討」の目的の範囲内において、大江戸モーターの小型モーターに関する秘密情報を自由に使用できます。
この作業はNDAの目的内なので、自由に使っちゃいましょう!
これは、CFGモーターズが、大江戸モーターの虎の子の秘密情報である小型化技術を、自社の次世代電気自動車用小型モーターの開発に使える余地があることを意味します。最終的には、同技術を転用されてCFGモーターズの独自開発を許すことにつながりかねません。これは、大江戸モーターにとって大きなリスクとなります。
このことからも、江戸氏がNDAを結ぶ目的を明確に認識し、この目的を過不足なくNDAの契約書に記載すべき重要性が分かっていただけるかと思います。
なお、仮に矢面氏から「NDAを結ぶ目的」や「目的外使用禁止条項」の記載のないNDAのひな型が提示された場合、江戸氏は「NDAを結ぶ目的を記載してください」、「秘密情報の目的外使用禁止条項を設けてください」と申し入れる必要があります。または、こうした場合、自らこうした記載や条項を加筆してNDAの契約書を矢面氏に返す必要があります。
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