自動培養装置によるヒトiPS細胞の長期間培養に成功:医療機器ニュース
京都大学とパナソニックは、ヒトiPS細胞の自動培養装置を開発した。これを用いて長期間の培養を実施したところ、ヒトiPS細胞の主要な特徴である未分化性・多分化能が十分に維持できていることも確認した。
京都大学は2015年11月27日、同大学の岩田博夫名誉教授とパナソニックが共同で、ヒトiPS細胞の自動培養装置を開発したと発表した。さらに、これを用いて長期間の培養を実施し、ヒトiPS細胞の主要な特徴である未分化性・多分化能が十分に維持できていることも確認した。この成果は同年11月17日付の英科学誌『Scientific Reports』に掲載された。
治療また創薬にiPS細胞を用いるためには、性質の安定したiPS細胞を供給する必要があるが、ヒトiPS細胞は他の一般的な細胞とは大きく異なり、高度な培養技術の習得が必要だ。また、土曜・日曜を含む毎日の培養作業は研究者にとって大きな負担であり、人の手によるミスが起こるといった問題も発生していた。自動培養装置の開発はこれまでも進められていたが、装置が大型である、短期間培養に対しての評価しかしていないといった課題が残されていた。
そこで今回、できる限り人の手が入らない条件下でiPS細胞を継続的に供給できる自動iPS細胞経代培養装置を開発した。この装置は、ヒトiPS細胞の培地交換、細胞観察、継代作業(新しい培地に細胞を一部移して、次代として培養すること)を自動化できる。
まず熟練培養者の作業を動画解析し、細胞培養に必要な熟練した研究者の培養動作をロボット技術によって再現した。また、インキュベータや遠心分離機、位相差顕微鏡など細胞培養に必要な機器を備えた上で、従来の自動培養装置よりも小型化することに成功した。装置内には種々の培養条件が記録として残されているため、予期せぬことが起こった時のトラブルシューティングも容易にできる。
さらに、この装置を用いて、20継代合計60日間のヒトiPS細胞の連続培養を実施した。免疫染色法や遺伝子発現解析によりiPS細胞の性質について調べたところ、自動培養装置での長期間培養後でも未分化性を維持していた。また、長期間培養後の細胞を適切な培養条件で分化培養すると、ドパミン神経や膵内分泌細胞へ分化した。
このように、同装置は高品質なiPS細胞を安定的に供給できるため、今後は創薬や再生医療などの基礎研究分野の発展に寄与することが期待される。I型糖尿病の根本
治療として期待されている膵島移植に用いるための、分化培養ができる装置を開発する計画もあるという。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 優勝校の京大も取材! 若者の熱気があふれるピットエリア
学生フォーミュラレポート、最終回である今回は、80校を超える参加校のテントが並び、若者の熱気があふれるピットエリアでのインタビューをお伝えする。 - 日本の新たな宇宙計画、その背景にある安全保障と宇宙産業の関係性
日本政府が2015年1月に発表した新宇宙基本計画。安全保障分野に関する宇宙利用の拡大など、日本の長期的な宇宙政策のビジョンが示された。この計画が策定された背景について、内閣府 宇宙戦略室の初代室長を務めた京都大学の西本淳哉氏が語った。 - 東アジア最大の天体望遠鏡を実現する3つの新技術
京都大学 宇宙総合学研究ユニットの特任教授でありユビテック顧問も務める荻野司氏が、東アジア最大となる口径3.8mの光学赤外線望遠鏡の開発プロジェクトについて語った。同望遠鏡の開発には、日本発のさまざまな技術が利用されているという。 - 東大と京大が1Xnmノード対応の電子ビーム描画装置を購入、アドバンテストから
アドバンテストは、1Xnmノード対応の最新の電子ビーム描画装置「F7000シリーズ」が、東京大学と京都大学、半導体関連企業から計3台の受注を獲得したと発表した。2014年3月末までに出荷する予定。 - ダイキンがオープンイノベーション拠点を設立――京大との包括提携も
ダイキン工業は新たにオープンイノベーション拠点を2015年に設立する。合わせて京都大学との包括提携も発表。産学の幅広い知識や技術を呼び込み、イノベーション創出を目指す方針だ。