「はやぶさ2」が地球に近づく理由、「地球スイングバイ」の仕組み(3/3 ページ)
小惑星探査機「はやぶさ2」が、軌道を変えて小惑星リュウグウに向かうための「スイングバイ」を行う。国内からの観測チャンスもある、このスイングバイの仕組みについて解説する。
Delta-DOR観測では2つ以上の地上局で同時に観測を行い、信号の受信時刻差を計測することで、探査機がどの方角にいるか、精密に知ることができる。地上局間の距離が離れているほど精度が上がるという特徴があるため、日本国内だけでは十分でなく、NASAやESAの海外局も利用する。
1回目の軌道制御(TCM1)は2015年11月3日に実施し、エンジンを約4秒間噴射。そして2回目(TCM2)は同年11月26日で、こちらでは約1秒間の噴射を行った。当初、軌道制御は3回実施する計画だったのだが、2回目までの結果、十分な精度が得られたということで、12月1日に予定していた3回目はキャンセルされた。
スイングバイ当日は特にエンジンを噴射するような運用は無いので、ここまで来れば、よほどのことが起きない限り、失敗することはないだろう。ただし、スイングバイ後に計画通りの軌道に入ったかどうか、確認にはしばらく日数が必要となるため、結果の発表は2015年12月10日以降になる見込み。機体状態については、当日中に公表する予定とのこと。
スイングバイ中の探査機の様子を近くから見ることはできないが、プロジェクトのWebサイトで公開されている3Dシミュレータを見てもらいたい。軌道や姿勢は事前の計画値であり、現在の値をリアルタイムに反映しているわけではないものの、これを見れば、いま探査機がどのあたりを飛んでいるのか非常に分かりやすい(はやぶさ2スイングバイ軌道3次元表示の公開について)。
また、はやぶさ2やリュウグウの軌道を見るには、柏井勇魚氏が開発したWebサービス「H2Track」が便利だ。軌道を上から見たり横から見たりすれば、リュウグウの軌道傾斜角の大きさ(5.884度)なども実感できて非常に面白い。これらを活用して、地球スイングバイを楽しんで欲しい。
筆者紹介
大塚 実(おおつか みのる)
PC・ロボット・宇宙開発などを得意分野とするテクニカルライター。電力会社系システムエンジニアの後、編集者を経てフリーに。最近の主な仕事は「完全図解人工衛星のしくみ事典」「日の丸ロケット進化論」(以上マイナビ)、「人工衛星の“なぜ”を科学する」(アーク出版)、「小惑星探査機「はやぶさ」の超技術」(講談社ブルーバックス)など。宇宙作家クラブに所属。
Twitterアカウントは@ots_min
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- はやぶさ2から小惑星に降り立つローバー、「ミネルバ2」の仕組み(前編)
2014年12月に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ2」に搭載された、ローバー(探査車)が「ミネルバ2」だ。小惑星に降り立つ重要なミッションを持ったミネルバ2の全貌に迫る。 - 「H-IIAロケット29号機」公開(後編)――“高度化”で大改造された第2段
日本の基幹ロケット「H-IIA」が「高度化」と呼ぶ大型アップデートを実施する。“H-IIA Ver 2.0”として諸外国のロケットと渡り合うため、定められた3つの目標と、6つの着目すべき技術について解説する。 - 「H-IIAロケット29号機」公開(前編)――29号機で何が変わったのか
日本のロケット「H-IIA」が「高度化」と呼ぶ大型アップデートによって、「アリアン5」や「プロトン」など諸外国のロケットに戦いを挑む。アップデート初号機となる29号の機体公開から、国産ロケットの現状を読み解く。 - はやぶさ2、宇宙へ これまでの軌跡とこれからの予定
天体からの試料採集と地球帰還というミッションを持った、小惑星探査機「はやぶさ2」が無事、打ち上げられた。これまでの軌跡と、これからの予定を紹介する。 - 光で距離を測って安全に降下せよ! 〜レーザー高度計(LIDAR)の仕組み〜
小惑星表面までの距離が正確に分からないと、安全にタッチダウンすることができず、激突して探査機が壊れてしまうかもしれない。今回は、「はやぶさ2」で大きく改良された「レーザー高度計(LIDAR)」について紹介しよう。