医療分野にも広がる仮想通貨の技術「ブロックチェーン」とは:海外医療技術トレンド(6)(3/3 ページ)
ビットコインのような「仮想通貨」の根幹技術であるブロックチェーンを、医療やライフサイエンスの分野に応用しようという動きが世界で起きている。
遺伝子データ研究に応用されるブロックチェーン技術
ブロックチェーン技術は、ライフサイエンスの分野にも応用されている。例えば、アリゾナ州立大学の研究チームは、オープンソースのP2Pのファイル転送用プロトコルおよびその通信を行うソフトウェア「BitTorrent」をプラットフォームとして利用した分散型遺伝子データ公開/研究/アーカイブ用ポータル「BitTorrious」を構築し、2014年12月、その研究成果が学術専門誌BMC Bioinformaticsに掲載されている(関連情報)。図4は、ポータルサイトのダッシュボード画面を示している。
図4 分散型遺伝子データポータル「BitTorrious」のダッシュボード画面 出典:Lee PV, Dinu V「BitTorious: global controlled genomics data publication, research and archiving via BitTorrent extensions.」(BMC Bioinformatics. 2014 Dec 21;15:424. doi: 10.1186/s12859-014-0424-9)
さらに、同研究チームは、ブロックチェーンをベースとする分散型ストレージをサーバサイドに拡張して、集中管理型データストレージを構築する研究を行っている(関連情報)。
ブロックチェーンとクラウド/IoTの連携・ソリューション化
ICTベンダー/サービスプロバイダーも、ブロックチェーン技術を利用した汎用的なソリューション開発に取り組んでいる。例えば、IBMは、ブロックチェーン技術を活用してIoT(モノのインターネット)の課題を解決する「Device Democracy」という概念を提唱している(参考情報、PDFファイル)。
IBMによれば、「2005年以前はクローズドな集中管理型のIoTネットワークの時代、現在はオープンアクセスのIoTネットワークで集中管理型クラウドの時代、2025年はオープンアクセスのIoTネットワークで分散型クラウドの時代になる」という。ブロックチェーンを利用したP2Pネットワークを採用することによって、膨大な数のIoTのトランザクションを処理し、大規模の集中管理型データセンターの導入/維持に関わるコストを削減することが可能になるとしている。
図5 IBMが提唱する「Device democracy」 出典:IBM 「Device democracy: Saving the future of the Internet of Things」(2015年7月)
一方、Microsoftは2015年11月9日、ブロックチェーン開発環境をクラウドサービス「Microsoft Azure」上で提供する「Ethereum Blockchain as a Service(EBaaS)」を発表した。「Ethereum」は、分散型アプリケーション(DApps)やスマートコントラクトを構築するためのオープンソースソフトウェアプロジェクトである。
Microsoftは、Ethereum向けの分散型アプリケーション開発スタートアップ企業ConsenSysと提携し、同社のブロックチェーン環境構築ツールキットを利用して、Microsoft Azure向けにブロックチェーンで利用できる全てのAPIが使用可能な「Blockchain-as-a-Service(BaaS)」を提供する(関連情報)。
今後は、医療分野におけるブロックチェーン利用を可能にするクラウド型のサービスが、ネットワーク、プラットフォーム、アプリケーションの各レイヤーで登場するだろう。IoTやビッグデータなど、医療機器と連携する新技術領域には、ブロックチェーンとの親和性が高いところが多く、イノベーションが期待される。
また、ブロックチェーン向けのプライバシー/セキュリティ関連機能については、テロ/マネーロンダリング対策や利用者保護対策など、法規制の厳しい金融分野における開発/導入が先行しており、その経験やノウハウをどのように横展開させるかが鍵になるだろう。
筆者プロフィール
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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