タイヤがセンサーになる技術を世界初の実用化、2020年までに一般車に展開:タイヤ技術
ブリヂストンは、タイヤで路面状態をセンシングする技術「CAIS(カイズ)」が冬季の高速道路管理に採用されたと発表した。今後は、鉱山用トラックやバス、航空機などでの活用も見込んでおり、2020年までに一般の乗用車への展開も目指すとしている。
ブリヂストンは2015年11月25日、東京都内で記者会見を開き、タイヤの接地部分から路面状態を判別する技術「CAIS(カイズ)」が、ネクスコ・エンジアニリング北海道による冬季の高速道路路面管理に採用されたと発表した。「こうしたタイヤセンシング技術が実用化されるのは世界で初めて」(ブリヂストン)だという。CAISを使えば、タイヤ内部に接着した加速度センサーで検知した振動の波形の特徴を基に、「積雪」や「凍結」、「湿潤」など次々に変化する雪道の路面をきめ細かく区別できる。高速道路管理事務所は、CAISで得た路面状態の情報に合わせて凍結防止剤を散布して効率のよい凍結対策が可能になる。
ブリヂストン 中央研究所担当 執行役員の森田浩一氏は「今後は鉱山用トラックやバス、航空機などでのCAISの活用も見込んでいる他、2020年までには一般の乗用車でも装着できるよう搭載コストの引き下げなどを図る」と語る。
同社は2011年から、タイヤの接地面から情報を収集、解析してタイヤに付加価値を持たせるコンセプトCAISに基づいたセンシング技術の開発に取り組んでいる。2014年にはタイヤの摩耗状態を推定する技術を開発した。路面状態の判別に関しては、2011年11月からネクスコ・エンジニアリング北海道と共同で実用化に向けた試験に取り組んでおり、約4年を経て採用にこぎつけたことになる。なお、路面状態を「乾燥」「半湿」「湿潤」「シャーベット」「積雪」「圧雪」「凍結」の7種類に判別するためのアルゴリズム構築では統計数理研究所が協力した。
CAISは、加速度や温度、圧力を計測するセンサーモジュール、センシング結果を車載計測器に送信する無線通信機、これらを動作させる電力を供給する小型発電機をタイヤの内側に貼り付けるシステムだ。
走行中、センサーを装着した部位が地面に接してから離れるまでの間で加速度は急激に変化する。この時、路面の水膜に触れた時や凍結路面で滑った時など、路面の状態によってそれぞれ特徴的な加速度波形になる。そして、実際に走行してCAISから取得した加速度波形に現れる路面状態によって異なる特徴から基に、路面の状態を判定する。路面状態を先述の7種類に判別するアルゴリズムは、機械学習によって最適化している。
加速度波形の特徴を数値化するモデリングの作り込みも進めた。これによって、従来はCAISを取り付けた個別のタイヤごとに行っていたキャリブレーションが不要になったという。
検出した路面の状態は車内のディスプレイに表示する他、インターネットを通じて共有できる。運用を始めるネクスコ・エンジニアリング北海道が管轄する北海道の高速道路では、CAISで判定した路面状況をセンターに集めて作業車に配信し、リアルタイムに除雪や凍結防止剤の散布の要不要を判断できるようにする。これによって道路管理の効率化につなげられるという。
高速道路管理事務所での採用に向けて、CAISのセンサーや発電機の耐久性も向上した。ネクスコ・エンジニアリング北海道の巡回車両は、例年10〜3月までの冬季期間に約3万〜4万km走行する。往復100kmの巡回を1日に何度も繰り返すためだ。具体的にはセンサーの形状や発電機の構成を見直し、センサーを接着する台座を変更した。
一般車両で普及させていくには、搭載コストの引き下げが課題となる。北海道で実走する車両の荷室には路面状態を判別するための大きなコンピュータを載せている。車載ECUやカーナビゲーションで処理できるようアルゴリズムを見直したり、発電機やセンサー自体を小型化したりする必要があるという。既に商用車で広く用いられているTPMS(タイヤ空気圧監視システム)並みに搭載性を改善していく考えだ。
将来的には自動運転技術での活用も目指す。「触ることで得られる情報は多い」(統計数理研究所 所長の樋口知之氏)とし、従来の車載センサーでは得られなかったCAISによる情報を用いた運転支援システムの高度化に向け、自動車メーカーやティア1サプライヤへの提案活動を強化する方針だ。
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