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ロボットの新機軸「クラウドロボティクス」5分でわかる最新キーワード解説

クラウドの持つ計算能力と蓄積された知識をベースにロボットを制御し、多種多彩なサービスを実現するのが「クラウドロボティクス」だ。ロボットのマルチサービス化、低価格化の鍵になるかもしれません。

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 今回のテーマは介護などの生活支援などへの貢献が期待されている「サービスロボット」を小型化・高性能化するとともにマルチサービスに対応させて低コストに実現する「クラウドロボティクス」。欧米や新興国に急追される日本のお家芸「ロボット」技術の未来を開くカギになりそうです。

クラウドロボティクスとは

 クラウドが持つ膨大な計算能力とそこに蓄積された知識をベースにロボットを制御し、各種のサービスを実現する仕組みが「クラウドロボティクス」だ。

  • クラウドロボティックスの一端を理解するための具体例:買い物支援ロボット
図1 買い物支援ロボットの実験風景
図1 買い物支援ロボットの実験風景(資料提供:国際電気通信基礎技術研究所、ATR 知能ロボティクス研究所)

 クラウドロボティクスの本格実用はまだ少し先の話なので、国内で行われた「買い物支援ロボット」実験を例に考え方の一端を紹介しよう。この実験では、お年寄りがスムーズに買い物できるよう、複数のロボットが役割を分担して支援する仕組みが検証された。

 まずお年寄りが自宅のIT端末の中の「バーチャルロボット」と対話して品物を注文する。するとその人の情報が街頭に設置されたロボットに伝わり、お年寄りが外出すると本人を識別、位置情報を買い物をガイドするためのロボットに伝達する。

 ガイド用のロボットはお年寄りのいるところまで自分で出向き、声をかけて店舗へと誘導する。店舗内でも「不足している買い物はないか」を確認したり、注文したもの以外の買い物があればその売場へと案内したりする。買い物中はロボットとお年寄りが楽しく会話でき、買い物カゴなどはロボットが運搬する。一連のサービスはオペレータが遠隔監視し、必要があれば補助的に遠隔制御を行うこともできるようにした。

 この実験では、3種類のロボットが利用されており、それぞれがネットワークを介して接続し、互いの情報を交換しながら、役割に応じた自動制御を行うことで一連の買い物支援を実現した(この実験は2010年に総務省の研究委託を受けてATR知能ロボティクス研究所が実施)。

 肝心なのは一連の仕事がネットワークで連携していることだ。この例のように、ロボットが単体でサービスを提供する以外に、外部のシステムとネットワークで接続して何らかのサービスをより合理的に、かつ低コストに提供できるようにしようというのが「クラウドロボティクス」の根幹の考え方だ。

クラウドロボティクスが注目される背景は

  • リーダーとしての地位が危うい日本のロボット分野

 「ロボット」と言えば「鉄腕アトム」のような人型ロボットか、自動車などの生産現場で利用されている産業用ロボットのどちらかをイメージされる人が多いだろう。国内では前者は「ASIMO」や「アクトロイド」といった実験的でエンターテインメントの要素が強い製品として実現しており、後者は古くから工場の生産効率に大きな貢献をしてきた。

 こうした実績からロボット技術は日本のお家芸と思ってきた私たちだが、福島の原発事故対応で初期に投入された調査用ロボットが国産ではなかったことに首をかしげた人も多かったのではないだろうか。また、火星を走り回り映像撮影した火星探査用ロボットやGoogleが開発中の自動運転自動車はアメリカ製、2013年3月に公開された「Rapyuta」と呼ばれるオープンソースのロボット用クラウドプラットフォームはヨーロッパ発祥だ。国産ロボットは低コストな新興国の製品に押されて徐々にシェアを減らしてきており、実は日本は既にロボット先進国としての地位から滑り落ちかかっているのだ。

  • 状況打開の策として注目される「クラウド」との連携

 この状況を打開するために、産官学が一体となって推進しているのが「クラウド」連携だ。折しも「スマートグリッド」というキーワードで進められている電力流通の最適化構想が、クラウドによる情報伝達と処理技術を中心に物流や交通、上下水道、廃棄物処理などさまざまな領域にまで敷えんして考えられるようになり、「スマートコミュニティ」や「スマートシティ」という新しいキーワードでくくられるようになってきた。社会活動の全般をITによって最適に制御しようというこの大きな潮流の中でロボットもその一部に組み込まれ、クラウドを前提に新しくとらえ直されるようになった。

クラウドとロボットが連携することによるメリット

 ロボット技術の構成要素は「周囲の状況を把握するためのセンサー」「ものを移動するなどの動作を行う駆動系」、そして「自動制御のための情報処理系」の3つに整理できる。このうち、センサー技術は既に人間の五感の全部に対応する機器が実現しており、自動車やIT端末なども含めると2011年現在の数字で国内に約31億ものセンサーデバイスが稼働している。そうした大量のセンサーからの情報を互いに連携させて最適制御を行う「M2M(Machine to Machine)」システムの研究開発が活発に進められているのはご存じのことと思う。

 また、駆動系についても産業用ロボットや医療系のアクチュエータなどを中心に精度が高く高速で微細な制御が可能なものが登場してきた。情報処理系も発達し、3要素を組み合わせれば、最近話題になった「キャッチボールをするロボット」や「じゃんけんで必ず勝つロボット」などの例に見るように、非常に洗練された自動制御が可能になってきている。とはいえ、具体的な産業応用、社会システムへの組み込みという面ではコストが大きな制約になっており、産業用ロボット分野以外での普及はまだまだだ。

  • 情報処理系をクラウドに移行すればロボットの低価格化が実現

 もっと低コストに、一層幅広いサービス領域への適用ができないものか。そう考えたとき、ロボット単体で3要素全部を備える必要があるかどうかという疑問が出てくる。そこで注目されるのが情報処理系だ。

 コンピュータは小型高性能化してきているとはいえ、処理性能や内部に保管できる情報量には限りがあり、消費電力を抑えるのも難しい。センサーや駆動系は省略できないとすれば、情報処理系を一部でも外部化できれば、ロボットを低コスト化する道が開けるのではないか。

 そこでロボットの「自律制御」を考え直し、ロボットの周囲の状況を各種センサーで認識してはネットワーク上にあるサービス提供システムに送信し、情報処理の大半をサービス提供システム側で行って、必要なだけの制御情報だけをロボットに送るようにする方法が考えられた。サービス提供システムをクラウドで運用すれば、その拡張性を生かして処理性能や大量のデータ取得や保存、消費電力などの問題を解決できる。

 またサービス共通・ロボット共通のプラットフォームを作り、各サービス提供システムがミドルウェアとして利用できるようにすれば、これまでのようにロボット個別に全てを設計・開発・実装する必要がなくなる。1サービスにつき1ロボットの開発ではなく、1ロボットで複数のサービスを提供したり、1サービスを複数のロボットが役割分担して提供したりできるようにもなる。そうすればロボット設計と開発の工数が減り、内蔵する計算機資源の削減も可能になる。結果としてロボットが低コスト化し、多様なサービスに生かせるようになるはずだ。これがクラウドロボティクスの目指すところだ。

 図2にロボット単体でサービスを提供する場合の課題を示す。特定のサービスに対応するためのロボット開発ではコストが高止まりしてしまうのが一番の課題だ。図3は、クラウド上にサービス共通プラットフォーム(クラウドロボティクス基盤)を作って利用する場合のイメージだ。ロボットは共通プラットフォームの規約にそって作られてさえいれば、サービス提供側でのソフトウェア変更により、機能をいかようにも変えることができる。またロボットの選択もサービス側で決定することが可能だ。

図2 ロボット単体をサービス化する際の課題
図2 ロボット単体をサービス化する際の課題(資料提供:エヌ・ティ・ティ・データ)
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図3 クラウドとロボットの連携による解決(クラウドロボティクス基盤),図3 クラウドとロボットの連携による解決(クラウドロボティクス基盤)(資料提供:エヌ・ティ・ティ・データ)

クラウドロボティクスの構想と課題

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