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ハイヒールで踏んでも壊れない「CNTゴムトランジスタ」って何?5分でわかる最新キーワード解説

「ハイヒールで踏んでも壊れないトランジスタ」を実現したのは、カーボンナノチューブ(CNT)でした。ねじりや引っ張りにも強い“柔らかなトランジスタ”の特徴を解説します。「ハイヒールでの踏みつけ」にも意味はあります。

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 今回のテーマは衣類に貼り付けて洗濯しても大丈夫、ハイヒールで踏みつけても壊れない、カーボンナノチューブ(CNT)を加えた導電性ゴムの電極と半導体CNTのチャネルをゴム上に作製した「CNTゴムトランジスタ」です。ねじりや引っ張りにも強く、伸び縮みしても壊れない柔らかいトランジスタの登場で、ウェアラブルデバイスやヘルスケアデバイスの可能性がますます広がりそうです。

「CNTゴムトランジスタ」とは

 電極にCNT(Carbon NanoTube /「関連するキーワード」の項参照)を混合したゴム、チャネルに半導体CNTを使用し、シリコンゴムの基材の上に、電極とチャネルを組み上げた、伸縮性、柔軟性に富み、圧力、衝撃、ねじりや引っ張りにも強いトランジスタ。国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)のナノチューブ実用化研究センターCNT用途チームの関口貴子主任研究員と田中文昭特別研究員らがこの2015年8月、「ハイヒールで踏んでも洗濯しても壊れないトランジスタ」として発表した。

 ハイヒールでの踏みつけというのは、日常生活で起こりうる最大級の圧力で、その圧力は約25kgf/cm2。研究チームは自動車でひく実験まで行っているが、その時の圧力は約15kgf/cm2ということだ。また洗濯では捻りや引っ張りが生じやすい。実際にTシャツに貼り付けて洗濯を行ってもトランジスタが壊れないことを実証している。

 実際の試作品(図1)を手にしてみると、まるでスライムを固くしたような感触で、指でつまむとぐにゃりとしなる。透明ゴムの中に幾何学模様が描いてあるようにしか見えないが、実はこの「模様」に12個のトランジスタが含まれている。折りたたんだり思いっきりつぶしてみても、すぐに元通りの形状に戻った。

図1 CNTゴムトランジスタ試作品
図1 CNTゴムトランジスタ試作品
  • 絶縁体のゴムがどうして電子デバイスになるのか

 でも、そもそもゴムって絶縁体じゃないの? と疑問が湧くと思う。実はゴムそのものは絶縁体だが、素材に導電性のある物質を混ぜると電気抵抗が低くなることが以前から分かっており、「導電ゴム」として製品化され、キーボードのキー内部のスイッチ底面や精密部品の静電気対策、電磁波シールドなどに多用されている。

 導電ゴム製造用の混ぜ物としてはカーボンが使いやすいため一般化しているが、カーボンの構造は多岐にわたり、構造によって電気的な性質が異なる。中でも単層CNTは導電性を有し、柔軟で強度が高く軽量であるという特徴をもっており、従来型LSIの配線などへの応用も考えられている新素材だ。CNTの中には半導体的な特性を示すものもあるので、それだけを取り出してトランジスタのチャネルにし、電極をCNT添加の導電ゴムにすれば、CNTでトランジスタができるのではという発想が今回の発表につながった。

部材ごとに加工、転写・貼り合わせ・プリンティングで製造

 どのような構造のCNTを使うか、どれだけの量を加えるかなど、難題は多数あったが、産総研にはネットワーク構造を形成する単層CNTの伸縮性に着目した導電性単層CNTゴム複合材料の開発(東京大学との共同開発)や、高精度な成形加工が可能なCNTゴム複合材料の開発などを行ってきた経験がある。また金属的性質や半導体的性質を持つ単層CNTから、トランジスタとして機能する半導体的性質の単層CNTだけを選択的に分離する技術も開発してきた実績も持つ。

 これらの技術を活用し、単層CNTの電気的特性とネットワーク構造を利用して、伸縮性のある導電性単層CNTゴム複合材料をトランジスタの電極とし、同時にトランジスタのチャネルに半導体的性質を持つ単層CNTを用いたのが、今回のCNTゴムトランジスタだ。

 材料を作る技術は既にあったが、それを使ってどのようにトランジスタの構造を作りこむかが次の課題。研究チームは1000以上の構造や製造プロセスを試行錯誤しながら突き詰めていった。その結果、たどり着いたのが図2に示すような構造だ。シリコンゴムを基材にして、ソース、ドレイン、ゲート電極にCNTとゴムの複合材料を、チャネルに半導体CNTを用い、ゲート絶縁膜としてイオンゲルと呼ばれるやはり柔らかい誘電体材料を使用している。

図2 CNTゴムトランジスタの構造
図2 CNTゴムトランジスタの構造

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