通信網はグローバルからスペースへ「宇宙光通信」:5分でわかる最新キーワード解説
宇宙空間を飛ぶ人工衛星の間だけではなく、地上と衛星の間も地上と同等のネットワーク速度を目指すのが「宇宙光通信」です。日本製通信モジュールが人工衛星に搭載され新たな研究も行われています。
今回のテーマは「宇宙光通信」。衛星間でも、地上〜衛星間でも地上のネットワークと同等の高速・大容量データ通信の実現を目指す取り組みです。日本で開発された片手で持てるサイズと重さの光通信モジュールが上空600kmの超小型衛星に搭載され、新しい基礎実験が始まろうとしています。
「宇宙光通信」とは?
宇宙空間と地表で電波の代わりにレーザ光を用いたデータ通信を行なう技術のこと。衛星で撮影した高解像度映像による地図作成や、災害時の地上の状況の観測、地上の通信網の中継などさまざまな社会ニーズ、産業ニーズに対応できる大容量・高速な地上〜衛星間および衛星〜衛星間の通信を実現するのが目的だ。
- 日本が世界で初めて衛星から地上の間の双方向宇宙光通信を実証
宇宙光通信技術は1980年代から研究が進められてきたが、世界で初めて衛星〜地上間の双方向空間光通信に成功したのは1994年のこと。日本の宇宙開発事業団(現 JAXA/宇宙航空研究開発機構)が打ち上げた技術試験衛星VI型(ETS-VI)と、東京都小金井市の通信総合研究所(現 NICT/情報通信研究機構)の地上局およびアメリカのジェット推進研究所(JPL)の地上局との間で1Mbpsの光による通信回線が実現した。
この宇宙光通信研究はNICTとJAXAに引き継がれ、2005年にはJAXAの低軌道衛星となる光衛星間通信実験衛星「きらり(OICETS)」に光衛星間通信機器が搭載された。きらりは、欧州宇宙機関(ESA)の静止衛星ARTEMISとの間で、これも世界初となる双方向衛星間通信実験を成功させた。またNICTの地上局との間で、低軌道衛星として世界初となる双方向光通信を成功させた。
- 世界最速記録は5.6Gbps
海外事例では2008年、ドイツ航空宇宙センター(DLR)が運用する地球観測衛星「TerraSAR-X(テラサーX)」とアメリカの衛星「NFIRE」との間、TerraSAR-Xと地上局との間で世界最速となる5.6Gbpsでの空間光通信が実現している。NICTは、TerraSAR-Xを用いた国際的な共同実験にも参加し、DLRおよび欧州宇宙機関ESAと共に衛星からのレーザ光の検出に成功した。
- 超小型衛星に大幅に軽量小型化した通信モジュールを搭載
2009年にきらりの運用が終了して実験の間が空いていたが、2014年5月に打ち上げられたJAXAによる「だいち2号」の相乗り小型副衛星として超小型衛星「SOCRATES(ソクラテス)」が軌道高度約600kmの太陽同期軌道へ投入され、本格的な光通信実験を待っている。SOCRATESに搭載されているのは、きらり搭載モジュール(重さ約140kg)の約2.4%にあたる重さ約6kgの超軽量・小型モジュール「SOTA(ソータ)」だ。
宇宙光通信の仕組みは?
- 電波では拡散や干渉がネックに
これまで衛星間や衛星〜地上間の通信には電波(日本の電波法ではおよそ3THz以下の周波数帯)が用いられてきたが、宇宙との通信ではKaバンドと呼ばれる衛星放送よりも高い周波数帯を利用した1チャンネル当たりの伝送速度3.2Gbpsが現在のところ世界最速だ。光ファイバー網では既に40Gbpsの高速・大容量通信が基幹回線では一般化しており、100Gbpsも目前なのに比べ、貧弱なスピードであることは否めない。しかも今後の技術進歩によっても劇的な高速化は見込めないようだ。
光と電波は定性的には同じものだが、周波数によって特性が違い、開口径が等しい送信アンテナを用いた場合、周波数が低ければ低いほど拡散する。比較的低い周波数の電波は、不特定多数を相手にした放送などには有利だが、特定の受信先だけとの間の通信には向かない。送信電力の多くが無駄になり、受信可能エリアが広くなって通信の秘匿性が破られる可能性もあるからだ。通信相手が遠ければ遠いほど大きな送信出力が必要になる一方、電波干渉による通信品質の悪化も起こりがちになる。衛星間や衛星〜地上間という遠距離ではこれが大問題だ。
- 電波の限界を超えるにはレーザ光が必要
そこで拡散が少なく直進性が高いレーザー光の出番になる。特に近年は半導体レーザ技術が発展しており、0.8μm〜1.5μm帯(およそ200THz前後)の周波数で安定した品質のレーザ光が得られる。光ファイバーでも遠距離伝送に使われるシングルモードファイバーでは主に1.55μmの波長が用いられている。この技術を宇宙通信にも利用しようというわけだ。
- 高速で移動する衛星との通信を確立する技術
まず問題なのが、通信の相手先に確実にレーザー光を届けることだ。低軌道衛星は高度約600kmを秒速約7km(時速約2万5200km)で飛行している。移動する衛星の受信装置に的確に光を照射するには、移動位置を常に予測しながら、微調整を施す必要がある。衛星の軌道は事前に計算できるがそれだけでは十分でない。一般的には図4に見るように、通信用の光とは別に位置計測用の広がりの大きなビーコン光を照射し、それを捉えた衛星からの通信光を受けて位置を正確に合わせる仕組みがとられている。
実際の通信用レーザービームの広がり角は、きらりの例を参考にすると、きらり搭載の装置で5マイクロラジアン(約0.000057度)と極めて小さい。これは1000km先で直径5mに拡散する程度ということで、例えば富士山で構えた野球のミットに東京からボールを命中させるような精度である。これには駆動装置を1マイクロラジアン単位で制御する必要がある。これでも十分驚くような精度だが、今後よりエネルギーを集中して相手先に届けるためには、さらに細かい制御が必要になりそうだ。
- 宇宙と地上との空間光通信の課題は
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