「場当たり的な医療制度は終わり」――ビッグデータを活用し「先制予防」へ:モバイルヘルス講演リポート(2/2 ページ)
遺伝子情報やバイオマーカー、日常生活のデータから「先制予防」を行おうとする「モバイルヘルス(mHealth)」の研究が進んでいる。「健康医療データ信託銀行」の登場も予測される同研究の今を東北大学の田中博氏が紹介した。
健康状態を「継続的にモニタリングする」
これらの問題を解決するには、全てを医療施設に頼らない「患者参加型医療」に変わる必要がある、と田中氏は訴える。患者参加型とは、患者自身が自らの健康状態を把握し、医療情報・収集に努めることを指す。合わせて医療機関は、疾患前に治療する「先制医療」を推進し、疾患になったとしても重症化しないよう「3次予防」を行う。このような「生涯型医療」といった概念が今後の主流になるという。
「これらを実現するには、遺伝子や生物分子の情報から疾患予防を行う『ゲノム・オミックス医療』の活用や、バイオマーカー、日常生活の継続的なモニタリングが不可欠だ」(田中氏)。
継続的にモニタリングを行うには、「さりげないセンシング」が必要だ。具体的には、生活環境の中にコンピュータチップや計測装置やネットワークが組み込まれ、ユーザーが意識することなく、「どこでも」「いつでも」健康管理を行える状態が理想だという。このような概念は、モバイルを活用して健康・医療サービスがシームレスに連携する「モバイルヘルス(mHealth)」の中心理念に据えられ、実現に向けて取り組みが進められている。
いずれは「健康医療データ信託銀行」も
mHealthを実践するには、データの蓄積も不可欠だ。田中氏はいずれ整うであろうとされる、「健康医療データ信託銀行」の仕組みについても紹介した。患者は規約に了承し、データを預けて利子をもらう。製薬業界や医療産業がそのデータを基に研究につなげる。過去には抵抗があったというが、近年では医療の発展には必須だと考えられており、日本政府の成長戦略にも記載があるという。
田中氏は「mHealthは、日本の健康・医療・ケア体制のパラダイム転換を担っている。情報の下地となるデータ(Biobank)やゲノムコホート(遺伝子研究)などと連携し、日本の健康医療を支える素地を作っていきたい」と方向性を述べた。
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