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第42回 ウェアラブル前田真一の最新実装技術あれこれ塾(6/6 ページ)

実装分野の最新技術を分かりやすく紹介する前田真一氏の連載「最新実装技術あれこれ塾」。第42回はウェアラブル機器について解説する。

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6.現在のウェアラブル端末は試作機?

 現在、製品化されているウェアラブル端末はメールの着信通知、電話の着信通知と着信への応答、カメラ、時計機能程度を持っています。これだけの機能で数万円の価格が付いています。

 現在のウェアラブル端末では、機能も性能も限られていて、革新的製品というよりも、マーケティングの可能性を探る試作機と呼べるレベルの製品といった方が良いでしょう。

 実際、うわさが先行して、実際の機器はiPhoneやiPadが出現した時のようなインパクトもなく、爆発的に売れているわけではありません。

 現在、ウェアラブル端末はスマートフォンをハブとして、スマートフォンと通信して使うような製品として考えられています。ウェアラブル端末に魅力ある機能を付け、有効に使いこなせる機器にするためにはスマートフォンがウェアラブル端末を有効に活用するための機能拡張と仕組みづくりが必要です。

 Googleでは2014年3月、スマートフォン用OSのAndroidにウェアラブル用機能を付加した「Android Wear」を発表しました。

 実は、韓国2社による既存製品と、Motorolaが開発中の腕時計型機器はこのAndroid Wear対応の第1世代の製品です。サムスン電子は、2013年から腕時計端末を販売していましたが、OSは同社が開発した「Tizen」を使っていましたが、今回はAndroid Wearに変更しました。もう1つのOS「iOS」では、2014年6月にThe Apple Worldwide Developers Conference(WWDC)で次期バージョン「iOS 8」を発表しました。

 ここで、iOS 8の新機能として、「HomeKit」と「HealthKit」を発表しました。現在の腕時計型ウェアラブル機器は単なるスマートフォンの操作端末でしかなく、マーケティング用の試作品と位置付けました。

 メガネ型ウェアラブル機器では、新しいアプリと組み合わせることにより、新しい運用の可能性があります。

 また、腕時計型端末に関しては、Appleが新しい機能を「HealthKit」と名付けたようにヘルス機器としての可能性が言われています。

 サムスン電子では、ヘルス機器を念頭にリストバンドに多くの生体センサーを実装した「Simband」のコンセプトモデルを2014年6月に発表しました(図8)。


図8:Simband(サムスン電子のWebページより)

 しかし、新しいヘルス機器を開発するのは、人間の健康に関することだけに多くの手間と時間が必要です。

 例えば時計型端末でよく言われる血圧を測定する機能ですが、血圧は心臓と腕の位置関係によって大きく変化します。

 現在の血圧は心臓の高さで測定する値を使っています。上腕で測定するのは、上腕が心臓の高さにあるためで、簡易型の手首での血圧測定でも手首を心臓の高さにして測定するようにとの指示があります。

 これに対して、腕時計型ウェアラブル機器ではウォーキングやジョギングで腕が振られている状態、エアロビクスなどで腕が上下に振られている状態での血圧をどのように判断するのでしょうか。

 心拍と血圧測定機能だけでは、魅力的商品とはいえません。血液検査ができれば、非常に多くの情報が得られます。汗の成分分析からも多くのことが分かるでしょう。

 もし、腕時計やリストバンドといったウェアラブル機器でこのような情報を得ようとしたら、測定、分析のための新しいセンサーや測定方法、結果の評価など医学会と一緒になった仕組みづくりが必要です。

 多くのベンチャー企業は、ウェアラブル機器の発展を見込んで新しい生体センサーの開発に取り掛かっています。サムスン電子も当然、Simbandの開発にはセンサーの重要性を理解し、開発に力を入れています(図9)。


図9:Samsung Gear 2の心拍センサー(iFixitより引用)

 また、センサーが読み取った生体情報は、素人のユーザーが持っているだけでは大きな意味はなく、医師との運用の連携ができて初めて効果が上がります(図10)。


図10:病院との連携(AppleのWebページより引用)

 しかし、医療事情や法律は国によって異なります。

 逆に考えれば、今後のウェアラブル機器は世界中の医療を統合し、変えてゆく可能性も持っています。

 ウェアラブル機器は何も腕に装着する型やメガネ型に限ったものではありません。補聴器やイヤフォン型、胸や肌に貼り付けたり、足に付けたりなど、センサーや人への出力形態でいろいろな形が考えられます。

 このような多様なウェアラブル機器では、やはりバッテリーが最も大きな問題となります。肌に付けたり、メガネのように耳に掛けたりする機器では「腕時計よりもさらに小さく・軽くする」、また「いかに電力を供給するか」が問題となります。

 ウェアラブル機器はモノづくりの立場からは、センサーと電源の開発が大きな問題となっています。

 しかし、ウェアラブル機器は単なるモノづくりだけではできません。OSを含んだアプリの開発、使う立場からの社会の仕組みや環境の整備などが必要となります。

 現在は、スマートフォンと中心の普及により、「本当のユビキタス時代」が実現してています。ウェアラブル機器により、さらにユビキタスコンピューティングが推進されていくでしょうが、社会変化が先行して、学者や政治、行政がなかなか変化しない世に見えます。


筆者紹介

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前田 真一(マエダ シンイチ)

KEI Systems、日本サーキット。日米で、高速システムの開発/解析コンサルティングを手掛ける。

近著:「現場の即戦力シリーズ 見てわかる高速回路のノイズ解析」(技術評論社)


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