ボルボのクリーンディーゼルは大排気量NAガソリンエンジンくらい気持ちいい:今井優杏のエコカー☆進化論(20)(3/3 ページ)
フォルクスワーゲンの排気ガス不正でディーゼルエンジンに対して厳しい目が注がれつつある。しかし、ディーゼルエンジンの中低速の大きなトルクや良好な燃費といった長所まで否定するのはいかがなものか。ボルボのディーゼルエンジン「D4」を搭載する車両は、その良さを実感させてくれる仕上がりになっている。
デンソーの最新技術「i-ART」を採用
D4は、排気量2.0lの4気筒ターボディーゼルエンジン。日本のサプライヤであるデンソーとの共同開発で採用されたコモンレール直噴技術は乗用車として世界初採用のものです。
通常のコモンレールは、1つのエンジンに対して1個の圧力センサーを備えています。しかし、D4に採用された技術「i-ART」は、各気筒の4本のインジェクタそれぞれが1個ずつ圧力センサーを持っており、10万分の1秒という精度の燃料噴射制御をかなえています。
また、燃料噴射圧も2500気圧と高く、既存ディーゼルエンジンに比べて短時間でより多くの燃料を噴射することで、1度の燃焼に対して1サイクル当たり2〜9回に分けた燃料噴射ができるようになり、燃料のロスを無くすこと=低燃費化(従来比約5%向上)と、燃焼温度を下げてNOxの排出自体を抑えることにも貢献しているすんごいもの。
ちなみにこれだけきめ細やかに燃料を噴射しますから、もちろんスロットル開度に対して滑らかに噴射量を調節してくれて、どの速度領域の走行でも気持ちのいい踏み心地が実現されているのもいい感じ。
私は一般道での走行でもサーキットでのフルブレーキングからの全開走行も両方経験しましたが、いやはや、どこで踏んでもきっちり踏力に応答してくれる感じは、ガソリンの大排気量自然吸気エンジンなみに気持ちいいものでした。逆に言うと、サーキットでは加速が気持ちよすぎて、ちょっとブレーキが物足りなく感じてしまうほど! もちろん一般道領域でのブレーキ性能はむしろ全く悪くありません。第一、公道でそんなブレーキ足りないくらいのアクセルの踏み方したら、免許があっという間になくなっちゃうかも! ってくらい速度が出ますから、よい子は絶対に試しちゃいけません。車体の小さいV40に至っては、ターボもぎゅんぎゅん効いてオーバースペックに感じてしまうくらいですもの。
他にも肝心のそのコモンレールに燃料を押し込むポンプも高圧化されていたり、専用の低摩擦エンジンオイルを採用していたり、オイルポンプがエンジンオイルの温度の変化で最適化されるように可変制御付きにしたり、ウォーターポンプを電動化したりと徹底した低燃費&高効率化がなされています。
肝心のターボも、大小異なるサイズのターボチャージャーを組み合わせた2ステージ方式を取っていて、低回転からターボラグのない気持ちのよい加速を感じられるようになっているんです。
このエンジンの恩恵をエエ感じで享受できるのは、ガソリンエンジンではちょっと燃費が心配だったXC60かも。大きな車体を苦もなくひゅん! と押し出してくれる頼もしいトルクが、休日の長距離運転をも頼もしく感じさせてくれるはず。その燃費、実にV40、V40クロスカントリー、S60、V60で20km/l超え。そして内装もゴージャス、見た目も重量級のXC60ですら18km/l(JC08モード)!
しかもドライブeのモジュール化の恩恵を受けて、価格はガソリンエンジンモデルに対して25万円高とかなりお買い得です(。
しかし、ある意味で悩ましいのは同社内におけるガソリンエンジンの存在。
乗り比べてみたら、ガソリンエンジンもそれはそれで素晴らしいのですよ。
既出のドライブeのT5しかり、もちろんS60やV60、「V70」に搭載された排気量2.0lで直列4気筒のT4も!
V40、V40クロスカントリーには、「T3」という排気量1.5l直列4気筒のガソリンターボエンジンが搭載されましたが、これもまた(もん絶)。
個人的にこのV40はパッケージ自体もタイプなのですけど、踏めばダウンサイジングターボらしからぬグイグイ系のトルクを備えていますし、特筆すべきはやっぱり制振性と静粛性! とにかく静かで滑らか、JC08モード燃費も16.5km/lとなかなかのもの。25万円を高いとするか安いとするか、それよりも走りでぜひ選んでもらいたいと思うくらい、きっちりキャラが分かれているのもまた悩ましいのでした。
今回のVWの件を受けて、ボルボカーズジャパンに問い合わせたところ、ボルボは大前提として米国にディーゼルエンジンを導入していないこと、そして不正ソフトウェアも使っていないということでした。
販売店にはユーザーからの問い合わせも来ているようで、ここにも問題が波及しているようなのでした。しかし一部報道に見られるような、ディーゼルエンジンはやっぱりアカン、みたいなことで何もかもを一緒くたにするのは本当に悲しいこと。
今回の問題が、いわれの無いディーゼル批判エンジン批判、ひいてはクルマ批判につながることだけにはどうしても抵抗しておきたかったのです。
そして一刻も早く、今回の事件の全容が明らかになることを祈るばかりです。
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