政府主導のモノづくり革新は、日本の製造業に“ワクワク”をもたらすか(前編):デライトものづくり(1/3 ページ)
安倍政権が推し進める経済再生政策で重要な役割を担う「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」をご存じだろうか。「日本が勝てる領域において戦略的にイノベーションを創出する」という目的をもとに創出されたプログラムだ。現在10プログラムが進行中だが、その1つである「革新的設計生産技術」部門が、公開シンポジウムを開催した。
内閣府と新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は2015年9月17日、「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の「革新的設計生産技術」プログラムにおける現在までの成果を示す公開シンポジウムを都内で開催した。本稿では同シンポジウムの内容をお伝えする。前編ではSIP革新的設計生産技術プログラムの全体像を、後編では実際に稼働している24の研究テーマについていくつかを紹介する。
SIPとは、内閣府 総合科学技術・イノベーション会議が主導して発足した科学技術イノベーション実現のために創設した国家プロジェクトだ。省庁間の枠や旧来の枠を超え、産官学が一体となって将来の日本の発展につながる技術を開発する取り組みで、安倍政権における成長戦略の中でも重要な位置付けを占めている。
現在進行中のプログラムは以下の10テーマで、それぞれがプログラムディレクター(PD)の主導のもと、活動を進めている。
- 次世代パワーエレクトロニクス
- エネルギーキャリア
- 次世代海洋資源調査技術
- 自動走行システム
- 次世代農林水産業創造技術
- 革新的燃焼技術
- 革新的構造材料
- インフラ維持管理・更新・マネジメント技術
- レジリエントな防災・減災機能の強化
- 革新的設計生産技術
“デライト”なモノづくり
「革新的設計生産技術」は、この中で日本のモノづくりを革新し新たなスタイルを確立することを目指したもので、主に設計面での改革を目指す「超上流デライト設計技術」と製造面での「革新的生産・製造技術」の2つの面で取り組みを進めている。
革新的設計生産技術のPDを務める佐々木直哉氏は「製品に求める価値が変化する中、日本が従来強かった技術や手法を強みとしたモノづくりは競争力を失いつつある。目に見える物質的な価値の提供から無形の事象や経験的な価値である『コト』に焦点を当てた価値を提供しなければならない。これらの価値を提供するのに最適な設計や製造の手法、体制などを模索するのが狙いだ」と同プログラムの狙いを述べる。
その象徴として佐々木氏が訴えているのが「デライトものづくり」だ。デライトものづくりには明確な定義があるわけではないが、「デライト(Delight)」は、「喜ばせる」「楽しませる」などの意味を持ち、これらの喜びや楽しみなどの体験を製品やサービスを通じて顧客に届けることを目標とする。これらの顧客体験をベースとして考えることで「ニーズを超えた新たな価値提供」を行えるようにする。対極にあるのが、マーケティングによる顕在ニーズのみを満たす製品設計や、スペックなどの数値的価値のみを追求する世界だといえる。
このデライトものづくりは、BtoCとBtoBで分けて、それぞれの考え方を用意している。BtoCでは、心地よさやデザイン、スタイルなどの「魅力価値」の提供を目指す。これらの価値を安定的に提供するために魅力の価値指標を創出し、それに合った設計手法を確立するという。一方、BtoBではシステムとしての最適化やソリューションなど、個々の性能だけを重視するのではなくユーザーに届ける価値から逆算したシステムやサービス作りを進める。
これらの目標や考え方の下、参加メンバーがそれぞれのテーマに応じて試行錯誤しながら最適な形を探っていく。
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