「PSYCHO-PASSサイコパス」の特殊拳銃「ドミネーター」再現とIoT:ママさん設計者が見た「コネクテッド・ハードウェア」(4/4 ページ)
人気アニメーション作品の特殊拳銃をリアル再現した家電ベンチャー CerevoにMONOistの連載筆者 藤崎淳子氏が突撃! 作品の大ファンでもあり、設計者でもある藤崎氏から見た家電ベンチャーの開発現場とは? 今日のデジタル家電とIoTについても考えてみた。
ママさん、日本の家電のIoTにモノ申す!?
ところで、日本で「家電」と言えば通常、白物家電や黒物家電を連想しますよね。そしてその歴史を振り返ると、戦後の復興期に登場し、その普及率が生活の豊かさのバロメータにもなった、白黒テレビ、冷蔵庫、洗濯機の「三種の神器」を皮切りに、炊飯器、掃除機、オーブンレンジやエアコンといった生活家電が、“生活を便利に快適にするという価値を生み出した”ために、長らく家電の代表として扱われてきたことがうかがえます。
時代は平成に入って15年ほどの間にはITインフラの整備が加速。PCとインターネットが急速に普及し、今ではPCの代わりにスマートフォンを使って手軽にインターネットを利用できるようになりました。さらに最近ではクラウドサービスの登場によって、インターネットがつながる環境であれば、端末を選ばずいつでもデータにアクセスできるようになり、生活環境やビジネス環境は今もめまぐるしく進化し続けています。
その裏で、かつては「神器」とたたえられ売れに売れた家電たちの需要はとうに飽和状態になり、今や買い替え需要を待つ立場になりました。そこへ近年、「スマート家電」と称してスマートフォンを使って操作できる新しいタイプの家電が相次いで発売されているのですが、その仕様を見るにつけ、どうしても“コレジャナイ感”を感じてしまうのでした。
スマートフォンと家電を結び付けたことそのものではなく、「何を目的としてスマートフォンと家電を結び付けたのか」という根本的な部分がスッキリしないのです。例えば、いかに最先端技術を惜しみなく注ぎ込んだスマート炊飯器であろうと、消費者が望むのはただ1つ、「ご飯がおいしく炊けること」だと思うのです。しかもスマートフォンを持っていない場合でも、本体のボタンを操作すればユーザーはその目的を果たせてしまいます。この時点でスマートフォンと炊飯器を結び付ける動機は曖昧になってしまいます。
甲斐氏のお話から感じたことは、そもそもネット家電の定義とはIoTの活用であり、それによって新たな価値を生み出し、消費者の意表を突いて楽しませるものでないと意味がないということです。ネット家電の在り方は、これまで一般に浸透していた「家電=白物、黒物」の概念を刷新し“インターネットと家電が結び付くことで初めて得られる満足”という、目に見えないモノをカタチに代えた姿であろうということです。つまり消費者は、「ネットにつなぐことで利便性を向上しました」とうたうネット家電の“新たな機能”に対してではなく、ネット家電でなければ実現出来ない“新たな価値”を期待しているのです。でもこの解釈は紙一重で、多くの家電メーカーでは、分かったつもりでIoTの波に乗って、なんとか差別化を図ろうと頑張っているように感じます。ただ、販売部門主導で顕在的ニーズを拾っていく「マーケット・イン」の開発スタイルが、情報化社会に馴染んで目が肥えた消費者群と、加速度を増して変化していくIT社会の間で、どれほどのニーズをキャッチできるのだろうというのは、以前から疑問でした。そうしていまだに商品価値への認識が一般消費者のそれと乖離しているために、欲求心理をつかみきれていないように思えるのです。
かつて家電メーカーの開発はCerevoと同じく「プロダクト・アウト」が主流でした。それが、「モノが売れない時代」と言われ始めた頃から転換しだし、家電量販店にはメーカーの営業が派遣され、そこで拾ったニーズをフィードバックした製品が提供されるようになりました。ニーズを拾うことは大事なことですが、拾い方を間違えると商品価値を失ってしまいます。そしてそういった製品は不思議と、「お願いですから買ってください」という推しの強さをにおわせます。これは、家電に新鮮な驚きや楽しさを感じなくなった原因の1つではないでしょうか。さりとて、前例のないこれまで存在しなかった商品を新たに生み出し収益につなぐことは容易ではありません。だからこそ、既存のモノを組み合わせて新たな価値を創り出す「コーディネート技術」とIoT活用が、今後ますます注目されていくのではないかと思います。
今回の取材で、「IoT社会実現の鍵はCerevoのような“スタートアップ企業”が握っている!」――そう確信したのでした。
Profile
藤崎 淳子(ふじさき じゅんこ)
長野県上伊那郡在住の設計者。電気屋の家に生まれ、物心ついた時から常にその時代の最新家電に恵まれて育つ。工作機械販売商社、樹脂材料・加工品商社、プレス金型メーカー、基板実装メーカーなどの勤務経験を経てモノづくりの知識を深める。紆余曲折の末、2006年にMaterial工房テクノフレキスを開業。従業員は自分だけの“ひとりファブレス”を看板に、打ち合せ、設計、加工手配、組立、納品を1人でこなす。数ある加工手段の中で、特にフライス盤とマシニングセンタ加工の世界にドラマを感じており、もっと多くの人へ切削加工の魅力を伝えたいと考えている。
Cerevoが「ITmedia Virtual EXPO」のライブ配信に登場!
2015年9月16日の18時から配信されるスペシャル番組「ITmedia Virtual EXPO Stream『Makersはどこへ向かうのか、大手とベンチャーの選択』」に今回の記事で紹介したCerevoが登場します!
最新のMAKERSの最新動向に関するディスカッションに参加するのは同社CTOの松本健一氏。さて一体、どんなトークが飛び出すのでしょうか。
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