「H-IIAロケット29号機」公開(前編)――29号機で何が変わったのか:見せてもらおうか、「H-IIA改」の性能とやらを(4/4 ページ)
日本のロケット「H-IIA」が「高度化」と呼ぶ大型アップデートによって、「アリアン5」や「プロトン」など諸外国のロケットに戦いを挑む。アップデート初号機となる29号の機体公開から、国産ロケットの現状を読み解く。
海外製ロケットに対する勝算は
これで、少なくともΔVについては、アリアン5に追いつく。今回、Telesatの衛星打ち上げを受注できたのは、この高度化の実現が大きな要因であったことは間違いない。
三菱重工業の二村幸基氏(防衛・宇宙ドメイン技師長)は、「Telesatは商業衛星のオペレータとしてメジャーな事業者。この打ち上げが成功すれば、我々にとって大きな実績になる。高度化で衛星側の負担を軽減するロケットに仕上がるので、それをアピールして世界に売り込んでいきたい」と意気込む。
ただその一方で、引き続き課題となっているのはコストの高さ。為替が円安に振れ、一時に比べ問題が軽減されたとは言え、いつまた円高に戻るか分からない。二村氏は「1円でも安くなるよう努力している」と説明するものの、H-IIAロケットのままでは限界がある。大幅なコストダウンは難しいのが現状だ。
もし成功率が互角で、コストも同等ならば、衛星オペレータは、ロケットを乗り換えないだろう。使い慣れたロケットを次も選ぶだけだ。H-IIAが海外ロケットから顧客を奪うためには、打ち上げの成功を続けた上で、何かしらの+αが必要になる。
「ロケット機体の仕上がり、打ち上げ設備の仕上がりが非常に良くなっていて、道具としての信頼度が非常に高いことが私たちのロケットの強み」と二村氏は見る。最近のH-IIAロケットは、天候以外の理由による打ち上げ延期が全く無い。96.4%という高い成功率に加え、このオンタイム打ち上げの多さを武器として、同社は世界に乗り出す構えだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「受注生産」から「ライン生産」へ、新ロケット「H3」は商業市場に食い込めるか
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が新型基幹ロケット「H3」の概要を公開した。シミュレーション解析や民生部品の活用などでコスト低減を進め、商業打ち上げ市場に食い込むべく「事業開発ロケット」と位置付けるが、官需からの脱却に成功するかは不透明だ。 - ミッション達成の“ミニはやぶさ”「プロキオン」、エンジン停止をどう乗り切るか
東京大学とJAXAが、「はやぶさ2」とともに打ち上げた超小型探査機「PROCYON」(プロキオン)の運用状況を説明した。予定したミッションの大半はクリアしたが、エンジン停止に見舞われている。その打開策は。 - 東アジア最大の天体望遠鏡を実現する3つの新技術
京都大学 宇宙総合学研究ユニットの特任教授でありユビテック顧問も務める荻野司氏が、東アジア最大となる口径3.8mの光学赤外線望遠鏡の開発プロジェクトについて語った。同望遠鏡の開発には、日本発のさまざまな技術が利用されているという。 - 勤続17年の日米共同開発観測衛星「TRMM」が残した気象予測技術の進化
JAXAは東京都内で2015年4月上旬にミッション終了が予定されている熱帯降雨観測衛星「TRMM(トリム)」についての説明会を開催。宇宙から雨を観測する衛星として初の日米共同で開発されたTRMMは、約17年という当初の計画を上回る長期観測を続けてきた。今日の気象観測に大きな貢献を果たしたTRMMの功績を振り返る。